経営者・フリーコンサルタント・アメフト選手として活躍を広げるデュアルキャリア人材の軌跡

作成日:2024年3月1日(金)
更新日:2024年3月1日(金)

近年、本業とともにアスリートとしてのキャリアの2軸を持つ「デュアルキャリア」が注目されています。仕事とスポーツ、両面からのやりがいを手に入れられるほか、双方への相乗効果も見込めるなどのメリットも期待されており、働き方の一つとして選択する人も増えています。

今回インタビューした好田盛也さんも、アメリカンフットボールの社会人チームに所属しながら、コンサルタントとして活躍してきたデュアルキャリア実現者の一人。コンサルティングファームからアパレル企業執行役員への抜てき、そして現在のキャリアである合同会社KohMoriのCEO・フリーコンサルタントとしてのモチベーションや原動力には、スポーツが大きく関係していたそう。好田さんのこれまでの歩みについてお話を伺いながら、デュアルキャリアの魅力や可能性を探ります。

好田 盛也

今回のインタビューにご協力いただいたプロフェッショナル人材・コンサルタント

明治大学、国際基督教大学にて経営学を専攻。新卒でアビームコンサルティング株式会社に入社し、スポーツビジネスを主とした幅広い業種においてSAP構築やマーケティング、戦略策定などに従事する。その後株式会社ニコラに執行役員としてジョイン。新規事業開発責任者としてECサイト運営のノウハウを活かしたSaaS開発に取り組む。現在は2021年に設立した合同会社KohMoriにて、不動産・建築・コンサルティングビジネスを展開。社会人チームでアメリカンフットボール選手として活躍しながら、デュアルキャリアの道を歩んでいる。

好田 盛也

アメフトに全力を注いだ大学時代。試合に備える分析力で、ファーム内定を勝ち取る

 

好田さんは、社会人アメリカンフットボールチームに所属しながら、スポーツマンキャリアとビジネスキャリアを両立されています。アメフトとの出会いや、どんな点に魅力を感じたのか、教えてください。

 

好田さん(以下、敬称略):アメフトに魅力を感じたのは、中学・高校時代に「アイシールド21」という漫画に出会ったことがきっかけです。登場人物のプレーやストーリーに魅了され、少年心に憧れを抱くようになりました。

 

高校まではサッカー部で活動していましたが、明治大学進学とともにアメフトへスポーツを切り替えました。明治大学では、クォーターバックという司令塔のようなポジションでプレーしていましたね。

 

クォーターバックといえば、まさにチームの花形といったイメージがあります。その後2年次編入をされた、国際基督教大学(以下:ICU)でもアメフトは継続されていたのですか?

 

むしろアメフトを続けたいからこそ、2年次編入が可能なICUを選択したと言っても過言ではないです。多くの大学は3年次編入が一般的ですが、それではタイミング的に主力選手として活躍することは難しいと考えたので。

 

くわえて、ICUのアメフト部には強豪校としてのイメージもあまりなかったので、途中から参加したとしても十分中心メンバーとして活躍できる余地があると見込んでいたんです。 結果的には別のポジションに転向して選手としてプレーしながら、分析や事前準備などのデスクワークでチームを支えることに注力するようになったのですが。

 

スポーツにもデスクワークを行う場面があるのでしょうか?

 

好田:アメフトは準備のスポーツと言われるくらい、分析作業や戦略立案、そしてそれに伴うデスクワークの重要性は高いです。対戦相手の動きをビデオで確認し、各選手の動きをまとめて分析して、その後次の試合の作戦や練習プランを打ち立てて……と、意外にもやることが多いんですよ。

 

コンサルタントとして活躍するのに必要な分析力も、当時の経験から培われていたのかもしれませんね。

 

好田:まさに新卒で入社したアビーム社の採用面接でも、自己PRとしてアメフト部での取り組みをお話ししました。私たちが幹部として活動していたころは、最終的な目標を明確にし、1年間の練習メニューを春の段階ですべて確定させていたんです。ゴールと現状、そしてギャップの把握、適切なアクション策定、そしてそれらを実行するという活動の一連は、ビジネスにおいてはバックキャスト思考にのっとった手法ともいえますし、その点を評価していただいたのかと。

 

当時は経団連の方針変更があり、一般的な就活解禁は8月からとされていました。アメフトのシーズンは9月スタートなので、試合に注力するならば就活浪人が必須になってしまう。そのような事態は避けたかったので、第一志望だったアビーム社から内定をいただけてほっとしましたし、それからは心置きなくプレーに集中できました。

社会人チームの課題に直面し、スポーツビジネスへ自ら志願。新領域に対する身軽さを強みに

 

アビーム社では、スポーツ分野での複数案件を担当されています。アサインされるに至った経緯について、教えてください。

 

好田:自主的な活動を評価されて選任いただいた、という背景があります。入社当初はSAP導入やグローバル案件などを担当していましたが、同時に社会人アメフトでの活動を開始したことで、スポーツ業界の財政状況や現実的な課題を把握するようになりました。そしてどうにかしてその課題を解決できないか、とスポーツビジネスへの意欲がわいてきたんです。

 

当時アビーム社には7000名ほどの社員がいましたが、そのうちスポーツビジネスにかかわれるのは10〜20名ほどの狭き門でした。そこで若手社員のためのビジネス創出予算を活用して、周囲に声を掛け、スポーツビジネスの可能性を検討するプロジェクトを立ち上げたんです。プロジェクトを推し進めていくなかで既存のスポーツ領域専任チームとも関係性ができ、最終的にはそちらに引き抜かれる流れで着任しました。

 

当時の活動で、スポーツビジネスに関してご自身の中で印象に残ったことや学びはありましたか?

 

好田:個人的には、スポーツとコンサルティングはあまり相性のいいものではないな、という実感が残りました。というのも、基本的にコンサルティングビジネスというのはコンサルタント一人当たりの単価が高く、継続的に報酬を得られる成熟産業が相手でないと続かない。日本のスポーツ業界はアメリカなどに比べてまだまだ成長の余地がありますので、現時点では費用対効果を考えても長期的にかかわっていくのは難しいという印象を受けましたね。

 

このもどかしさは、その後独立して会社を設立する動機にも大きく影響してくるのですが。

 

起業の背景については、後ほどぜひお伺いさせていただきたいです。スポーツビジネス以外にもアビーム社ではさまざまな領域案件に取り組まれていますが、そのなかで得たご自身の強みを教えてください。

 

好田:さまざまな案件に取り組んだからこそ、専門性をつくることができなかった、というのは正直なところなのですが、だからこそ知らない領域への心理的ハードルが下がったのは強みだと思います。

 

クライアントでいえば、スポーツ、情報通信、デベロッパー、宇宙関連事業の新領域など多岐に渡りますし、業務内容としても戦略策定からSAP導入、マーケティングなど、網羅的に担当しました。一人プロジェクトも多かったので、ビジコン系であれば基本的に「できます」と二つ返事で回答できるのは私ならではの武器かもしれません。

ファーム時代の経験が買われ執行役員に。異なる人、環境の中でマネジメントを経験

 

2021年に、アパレル事業を展開する株式会社ニコラに執行役員としてジョインされています。一見アビーム社でのキャリアとはかけ離れた領域へのキャリアチェンジのように感じたのですが、どのような背景での転身だったのでしょうか?

 

好田:アビーム時代の経験とは、実は明確なつながりがあるんです。そのころはDXへの注目が集まり、大手各社も自社のノウハウを蓄積したSaaSの提供に取り組みたいと要望が高まっていました。SaaS系のコンサルティング発注が増えていくなかで、ニコラ社も同領域を主導できる人材を探していたようです。

 

アビーム時代、私も大手リース会社から資産管理関係のSaaSを構築したいと要望を受けて、プロジェクトに参画した実績がありました。サービス設計からセールスのガイドライン、導入支援の管理方法、カスタマーサクセスにおける顧客満足度の向上戦略まで、一気通貫でコンサルティング支援させていただいたのですが、その経験を評価されヘッドハントしていただいたのが背景です。立場としては新規事業領域統括の役員、というポジションでの着任でした。

 

アビーム社での働き方に比べ、何かギャップを感じるような瞬間はありましたか?

 

好田:一緒に働く人や環境は大きく変わりましたね。ニコラ社は20代前半の女性をターゲットにしたブランドを展開していますので、従業員も若い女性が多く、ファーム時代とはコミュニケーションの取り方を意識的に変えるようにしていました。

 

私のメイン業務はSaaS構築や新事業開拓でしたので、仕入れや商品企画に直接かかわることはありませんでしたが、業務理解のために企画会議などには参加するようにしていました。女性ブランドのトレンドや感覚知見はまったく持っていなかったので、「このデザインはかわいすぎる!」などの意見が交わされる会議の場はとても興味深かったですね……(笑)。

 

コンパクトな規模の会社でしたが、当時一緒に働いていた従業員やアルバイトの方は非常に優秀な方が多く、私も刺激を受けながら働くことができました。

日本のスポーツ業界を盛り上げるため起業。チームの収益スキームを確立するのが目標

 

ニコラ社で勤務をされながら、ご自身が代表となる合同会社KohMoriを設立されています。事業内容をお伺いしてもよろしいでしょうか。

 

好田:KohMoriの事業の柱は、不動産・建設・コンサルティングと、大きく分けて3つです。不動産の内訳としては、空き家を中心とした資産の運用や活用、賃貸や物件購入などの仲介業務、そしてそれに付随した各種保険の代理店業務を展開しています。建設関係では、引っ越しに伴う原状回復工事などのリフォーム事業、それに加えてコンサルティングビジネスにも力を入れています。

 

改めて、起業の背景をお聞かせいただけますか。

 

好田:先ほどもお話ししたとおり、起業した動機にはスポーツビジネスの課題を把握したことが起因しています。当時のチームは、スポンサーの数が減り、財政状況が悪化していました。プロチームでない場合、本業の傍らでプレーしている選手がほとんどなので、スポンサー獲得のための動きをしづらいんです。そのような事情もあり、つねに財政難を抱えている実情がありました。

 

そこで、スポンサーの支援に依存するのではなく、自分で稼いだ資源をチームに投入すればいいのではないか?と考えたんです。つまり、私が起業した会社がスポンサーとなり、全面的にチームを支援できたらいいのではないか、と。

 

起業の理由がチームに寄与するためだとは思いもしませんでした……!

 

好田:学生時代からずっと親しんできましたので、基本的に私の行動の源泉はスポーツにあるんですよ。なので自己犠牲的に起業したというよりも、愛着を感じているチームや日本のスポーツ界に対してもっと潤ってほしいという、多少利己的な動機に近い部分もあります。

 

諸事情があり、チームへのスポンサー提供はまだかなっていないのですが、現在は関東学生アメリカンフットボール連盟に所属する大学チームとスポンサー契約を締結し、連携に取り組んでいます。所属しているチームだけでなく、どんな場所でも全力で試合に臨んでいる選手やファンの方々がいる。それが金銭的な課題のために活躍できなくなってしまうのは、非常に惜しいんです。投資ができれば活躍の足場を作れるし、きっと新たなコンテンツがどんどん生み出されていい循環ができると思うので、そのためにも会社を成長させていきたいと思っています。

 

長期的には、各チームが自力で運営資金を調達できるようなスキームを打ち出せるよう、何かしらの取り組みができるのが理想ですね。弊社の社員がチームメンバーで構成されているのも、金銭的な自走力をチームにつけてもらいたいという狙いがあります。

挑戦領域を広げながら、経営者としてもコンサルタントとしても成長を続ける

 

経営者・フリーコンサルタント・アメフト選手、3つのフィールドでの活躍を維持するために工夫されていることはありますか?

 

好田:予算立案からオペレーションまで、基本は社員に全権委任していますが、自立的に考え動けるようになってもらうためにも教育や壁打ちのリソースを確保するようにしているんです。もちろん何かあったときには迅速にトラブル対応できるように、トップである私自身が柔軟に動ける環境を整えるようにしていますね。

 

スポーツとキャリア、それぞれを両立してきたからこそ得られたと感じるものがあれば、ぜひ教えてください。

 

好田:両立してきたからこそとは言えないかもしれませんが、私にとってスポーツは生きがいでありアイデンティティを与えてくれたものでもあるので、今まで続けてきてよかったと感じています。アビーム時代は深夜に帰宅して早朝から出社するような期間が続き、選手活動との両立に苦労はしましたが、当時の上司に鍛えていただいたからこそ今のキャリアがあると思っているので感謝しています。

 

最後に、独立や起業に挑戦したいと考えている方へ、メッセージをお願いします!

 

好田:もしあなたがファームで働いていて、将来的に独立を考えているのであれば、今いる場所でできるだけ多くのことを吸収し学んでおくことをおすすめします。ファームにいる間は新技術やトレンドの情報に自然と触れられる環境がありますが、フリーランスになってからは自ら動いていかなければ情報も取れませんし、相対的にコンサルタントとしての価値も下がっていくと、個人的には感じているので。

私自身、フリーコンサルタントとしての活動もしながら、経営者として社員のマネジメントや不動産領域への挑戦など、つねに裾野を広げ続けています。独立後は、コンサルタントとしての価値を維持できるよう努めつつ、新しい活躍の場を開拓していくように意識するのもいいかもしれません。

 

本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!

 

人生の大半をスポーツとともに過ごしてきた好田さん。キャリアの軸やご自身の信念など、その軸にはスポーツマンとしての経験が影響しており、まっすぐに突き進む姿がとても印象的でした。

 

近年、さまざまな働き方が認められるようになっています。仕事のために生きがいを諦めるのではなく、両立してさらなる独自性や強みを作るデュアルキャリアの道を選択する人は、今後も増えていきそうです。