プロフェッショナルに必要な“攻防”とは
本を読むだけでは得られない“リアルな声”。その場だから聞ける貴重な情報を上手にキャッチアップしながらも、守るべき秘密はしっかり守る。それがプロフェッショナルなのかもしれません。
先日6月22日(木)に、弊社が3ヶ月に一度開催している異業種交流会“みらい会”を、恵比寿にて開催しました。このブログをお読みくださっている方々の中にもご参加くださった方がいらっしゃるかもしれませんね。お忙しい中お越しいただきありがとうございました。今回は、ゲストスピーカーとしてシンクロフード社の藤代代表取締役にスピーチいただきました。
同社は昨年9月に東京証券取引所マザーズ市場へ株式上場され、今回は、IPOを目指すうえでの臨場感ある苦労話などさまざまなお話を伺いました。「何かを頑張ろうとする中で、苦労やトラブルが起きるのは当然。大切なのは、どうやって乗り越えていくか」なのだと改めて感じさせて下さるスピーチでした。
このお話は“リアルな声”であり、その場に居合わせたからこそ聞けるお話です。前回のブログでも書かせていただきましたが、私は本を読むのが好きです。本から学ぶことはとても多いですが、実際はいわゆる“オフレコ”なこともたくさんあるのだろうと思います(私自身も、ブログを書いていて、書くに書けない・・・と思う題材も正直なところしばしばあります(笑))。
そういった意味でも、“人から直接話を聞く”ことは、読み物を通してでは得難い情報を知ることができ、さまざまな学びや発見があります。これからも、“その場だから聞ける貴重なお話”からたくさんの学びを得たいですし、みらいワークスの仲間にもそうあってほしいと願っています。
さて、ここからは、上記とは少し種類の異なる『ここだけの話』や『人には言えない話』についてお話しましょう。コンサルティング業界、ここはまさに他言無用な話で溢れている業界の一つです。私は新卒で外資系コンサルティング業界に入りましたが、とにかく機密性が高い仕事をしている業界だったので、新卒のころからクライアントやプロジェクトの話をするときは気を付けるようにと、とにかく口酸っぱく言われ続けていました。
たとえば新規事業の企画プロジェクトを支援しているときに、どんな事をしているのか、どのマーケットに興味があるのか、そういった話が競合に漏れたら大問題ですよね。プロジェクトメンバーと一緒に電車で移動している際についつい仕事の話をしそうになってしまいますが、誰が聞いても内容がわからないようにして話す工夫をしていました。クライアントの名称や担当者の固有名詞を全て隠語にする、アルファベットに変換するなどは当たり前ですし、具体的なプロジェクトの内容について話をするのはもってのほか。しかし、要は暗号だらけということですので、慣れていない人だと全く話についていけません(笑) 自然と、仕事の話は移動中にはせずに、オフィスに戻ってから話すようになりました。タクシー移動の時にもこれらの行動習慣は同様でした。飲み会をセットするときには個室限定で、部屋の声が外に漏れにくいところを選んだりするのも重要であったりします。そうなると店選びがかなり難しいので、若手社員はとても苦労していたと思います。
そういった状況下なので、同じ会社の中でも他の人がやっているプロジェクトについてはまったく知らないということもままあります。同じ業界のトップ3全てがクライアント、なんてこともありますので、社内にはファイアウォールが敷かれており、情報が自由に行き来しないように組織が構築されています。このあたりは金融業界でも同じような組織設計をしていますね。
外資系のコンサルティング・ファームでは、グローバルでのプロジェクトの情報が社内データベースに収められており、社員は自由にそこにアクセスすることが出来ます。プロジェクトを進めるアプローチや検討の観点、イシューなどが収まっており、これらを閲覧できることはグローバル企業に所属している特権です(当たり前ですが、気密性が高いプロジェクト成果物についてはその責任者に問い合わせをして承認がなければ閲覧することが出来ませんので、誰でもなんでもアクセスできるわけではありません)。
私自身、コンサルティング会社を辞めてからもう12年も経ちますが、自分が社員として所属していた時、実はこんな仕事をしていた、なんて話を今更のように聞くこともあるくらい、機密保持は徹底されています。
ちなみに外資系コンサルファームにもいくつか種類がありまして、それによってグローバルでのナレッジマネジメントのレベルには差があります。本社と資本関係があるようなコンサル会社では比較的グローバルでの情報ネットワークが構築されていますが、各国で独自資本のグローバルネットワークを構築している外資コンサルでは、前者程の情報ネットワークはないようです。
これら『人には言えない話』事情をふまえたときにコンサルタントとしての仕事により生じるジレンマは、やはり“自らやっていることを周りの人に話せない事”です。特に若い時には自分がどれだけ大きな仕事をしているのか社外の友人などに話したくなる欲求などがあるかもしれませんが、残念ながらそれは叶いません。コンサルタントの仕事は基本的にクライアントの黒子となるのが仕事ですので、そういった意味では自ら脚光を浴びたいタイプの人には向いていない仕事なのかもしれませんね。それに、プロジェクトが上手くいったらクライアントの担当者の手柄になりますし、失敗したらコンサル会社のせい、くらいに思われる覚悟をしていなければ務まらない仕事でもあります。プロジェクトが失敗する要因はいろいろですし、一つの理由だけで失敗することは少なく、さまざまな要素が複雑に絡み合って結果へとつながります。失敗となった場合、社内の誰かのせいにするよりは、外部に理由を求めるのが自然の流れだと思いますが、プロフェッショナルとして仕事をするということは、そのような状況も受け止める覚悟を持った上で仕事を請ける事だと、今も思っています。
その企業の重要な情報を、他言せずにプロジェクトを進めることは、お金をいただき働くプロにとって至極当然のことです。しかしながら、人と直接話すからこそ聞こえてくる今後の世間の流れや重要な情報をキャッチすることもまた、プロとして当然のことです。機密情報を共有することがあってはならないのは言わずもがなですが、大切な情報を漏らさない泰然とした対応と、有益な情報をキャッチできる行動力。正しく守り、正しく攻める姿勢を持ち続けたいと思います。