<プロ監修>できるコンサルタントの必須スキル「質問力」
最終更新日:2021/06/04
作成日:2016/09/06
日々の何気ない生活の中でも、質問と回答のやりとりは頻繁に行なわれています。コミュニケーションの大部分は、質問と回答によって成り立っているのです。
「いい天気ですね?」 「そうですね」
このような何気ない会話でも、いい天気ですねという言葉の裏には「そう思いませんか?」というの意味が行間に隠れています。
このように、コミュニケーションの口火を切るのは質問であり、どう切り出すかでその会話の運びも変わります。その代表的なものが「営業」ですね。
日常的に、無意識に行なわれている質問というコミュニケーションですが、「質問力」は相手の本質を知るためにコンサルタントにとって欠かせないスキルの一つです。相談者がうまく表現できないことを高い質問力によって引き出すことができたら、クライアントの満足度が高まることは間違いないでしょう。
今回は、「質問する力」について考えていきます。
目次
■オープンクエスチョン/ クローズドクエスチョン
(1)質問の役割
(2)質問の種類
■オープンクエスチョン、クローズドクエスチョンのメリット/デメリット
(1)オープンクエスチョンのメリットとデメリット
(2)クローズドクエスチョンのメリットとデメリット
■質問力を上げるポイント
(1)業界・業務の背景知識を把握する
(2)質問の粒度を設定する
■傾聴力、想像力、本質力、仮説力
(1)傾聴力とは
(2)想像力とは
(3)本質力とは
(4)仮説力とは
※本コラムは、2021年06月04日に「できるコンサルタントの必須スキル 「コンサルタントの質問力」」を再構成したものです。
※本コラムは、営業力・マーケティング力支援、経営企画業務支援などを行なうコンサルタントが監修しています。
オープンクエスチョン/ クローズドクエスチョン
(1)質問の役割
質問が担う役割には、
・コミュニケーションの引き金を引く
・相談者の不明点を理解する
・相談者の意思を確認する
・会話を誘導する
などが挙げられます。
ヒアリングをする際の目的は、これらの要素を持った質問をすることになります。
難しく考えてしまいそうですが、日常生活の中で無意識に行なっている人がほとんどです。
(2)質問の種類
質問の種類は下記の二種類に大別されます。
・オープンクエスチョン
フリーな回答ができる質問。いわゆる5W1Hの質問。
・クローズドクエスチョン
Yes/Noのような選択肢で答える、広がらない質問。
この二種の使い分けについてみてみましょう。
<オープンクエスチョン>
話の導入部で使われることが多いです。
・「事業課題は何でしょうか」(What)
・「この問題点に気づいたのはいつですか?」(When)
・「問題に気づいた従業員はどなたですか?」(Who)
・「このアンケート調査はどこで取ったものですか?」(Where)
・「これらの商品で一番売れているものはどれですか?」(Which)
・「生産ラインにおいてAとBの生産割合はどのように振り分けていますか?」(How)
5W1Hで「相談者主体」で回答してもらうのがポイントの質問形式です。
<クローズドクエスチョン>
Yes/Noで答えられる、もしくは意識を介さず単純に回答できる形式で質問します。
具体的な選択肢をこちらから提示し、その中から選んでもらう方式です。
答えを選択するのは相手ですが、質問者が選択肢を提示しているため質問した時点で質問者が主体となり、会話自体を質問者が誘導しやすいのが特長です。
また、「今何時ですか?」のように、単純な答えを求めるものもクローズドクエスチョンに含まれます。
オープンクエスチョン、クローズドクエスチョンのメリット/デメリット
(1)オープンクエスチョンのメリットとデメリット
<メリット>
・回答者が主体的に答えるため、その人がどのような項目を重視しているかがわかる
・回答者に主体的に答えさせるため、コンサルタントが親身になって聞いているように印象付けられる
・話の導入をしやすい
<デメリット>
・情報が整理されないことがある
・回答者が当然だと考えていることは回答されないことがある
(2)クローズドクエスチョンのメリットとデメリット
<メリット>
・話を誘導しやすい
・質問者の仮説に沿った質問をすることができ、仮説に足りない回答を得ることができる
・選択肢を与えるため、回答者は答えやすい
<デメリット>
・回答者は誘導されているように感じる
・仮説が間違っている場合には、真に重要なことを引き出せない
それぞれにデメリットはあるため、双方の本質を理解しメリットを活かしつつ、抱き合わせて使うことで業務改革に向けた効果的な質問をすることができます。現場力のある営業は、その時に応じて使い分けています。
質問力を上げるポイント
(1)業界・業務の背景知識を把握する
質問という行動はコミュニケーションのツールではありますが、本来の位置付けは、質問し回答を得ることで未知を既知にすることです。
既知範囲を明確にしておかなければ、何が未知なのか判断できません。
そこで、まずコンサルタントはプロジェクトに対する知見のみならず、クライアントの業界や業務についての背景知識を得ておきましょう。アクションベースでは、その業界についてインターネットで検索したり、SNSを参考にするのもいいでしょう。
この時点では、先入観なくゼロベースで情報を得ることが重要です。仮説を考案した上で情報を得るとバイアスがかかった情報収集になります。偏った情報収集は、質問すべき項目を見落とすことにつながりかねません。コンサルタントはフラットなポジションでの本質的な情報収集を心がけましょう。
(2)質問の粒度を設定する
次にクライアントから獲得したい情報の粒度を設定しましょう。
例えば、ある企業に採用に関してコンサルテーションを依頼された際、
・どのような採用サイトや採用イベントを利用していますか?(従業員ベースレベル)
・どのような人材が欲しいと考えていますか?(部署ベースレベル)
・人材の補充にどの部署にどの程度人数を充てたいですか?(企業ベースレベル)
・エンジニア職に就きたい学生はどれくらいいますか?(業界ベースレベル)
といった質問が思い浮かぶと思います。
各レベルを考案する指針は以下の通りです。
・従業員ベースレベル
・部署ベースレベル
・企業ベースレベル
・業界ベースレベル
・グローバルベースレベル(世界情勢や時事情報による)
従業員ベースでは、従業員のアクション(実務)、意識(例えば組織改革に賛成か反対かなど)、ワークライフバランスなどさまざまな質問をすることができます。
ベースレベルを念頭におくことで、コンサルタントはクライアントの抱える課題について、あらゆる観点から情報を集めることができます。
また、質問力の土台になるのは想像力です。
コンサルタントは、クライアントの通常業務や長年にわたる社内ノウハウを実体験することはできません。そこで、上記で示した背景知識から想像を膨らませることにより、背景知識から考えられる、当然起こるはずのアクションや課題を想像するのです。いわゆる「一を聞いて十を知る」の実践です。
経営者と対面する時「こういう課題があると思うのですが」と前置きすることで、「このコンサルタントは現場力がありわかってくれている」という印象を持たせることもできます。これはクライアントとの信頼感につながりますので、背景知識は確実に獲得しましょう。
傾聴力、想像力、本質力、仮説力
(1)傾聴力とは
傾聴力とは、「対話によって相手のことを理解する能力」のことで、「相手の会話をじっくり聴く力」でもあります。
傾聴力は、コンサルティングに限らず、コーチングやカウンセリングなどにも活用されるスキルで、最も重要なコミュニケーション能力の一つです。
コンサルティングにおいて、傾聴力を発揮することで得られる成果としては、まずクライアントの現状・課題、ニーズ・ウォンツを理解できることと、次いで顧客に安心感・信頼感を与えられることです。クライアントに「この人なら何でも話せる」という印象を与えることは、先々の関係構築にもとても重要な要素になります。
では、傾聴に必要な動作とは、どんなものでしょう。
すでに関係性が構築されている相手ならまだしも、初対面の相手やコンサルティングを受託する前の相手を目の前にして、いきなり傾聴するのはかなりの難易度です。
まずは、お互いがある程度リラックスできる場を作ることが重要です。
天気や気候、時節や時事の話題などで口火を切り、表情豊かにまたテンポ良く対話することで、場を和ませるように心掛けます。
その上で、話題が本題に移ったら前述した質問力を駆使して、相互に関心のある事柄について、質問と傾聴を繰り返していきましょう。
傾聴する際には、相手の話に「うなずき」ながら、「なるほど」「そうですか」などの「相づち」を欠かさず、相手の話が一段落したら話した内容の要約やキーワードを「リフレイン」(復唱)して、“あなたの話をしっかり聞きましたよ。誤解はないですよね”という姿勢を常に示すことがポイントです。
また、相手の表情や口調に合わせる「ペーシング」(同調)も傾聴のスキルとしては効果的です。早口な相手には早口で対応する、声の大きな相手には大きな声で返すなどがそれです。
あなた自身も、“最初から一方的に話ばかりする人とはちょっと…”と思ったことがあることでしょうし、反面“この人は色々と親身に聞いてくれる”と感心したこともあるでしょう。
実感として、提案や報告の機会を除けば、普段のコミュニケーションのウエイトはクライアント8:コンサルタント2くらいの割合がもっともよい関係が構築できるように思います。
傾聴力を伸ばすとは、簡単に言うと“聞き上手”になることです。
傾聴を通じて、クライアントである相手から沢山の有益な情報を入手すると同時にクライアントに対して安心感や信頼感を与えることは、コンサルタントにとっては一石二鳥の能力と言えるでしょう。
(2)想像力とは
質問力の基礎は想像力です。どのように想像していくかについて考えていきましょう。
「質問の粒度を設定する」でご紹介した、ベースレベルの考え方を使って想像しましょう。
従業員ベースレベルではいち従業員として、自分ならどういうアクションを起こすか、部署ベースではその部署のリーダーになって部下はどのように思うか、リーダーとしてどのように業務効率化も含めた舵取りをするかなど、想像してみてください。
クライアントに共感する力は、コンサルタントとして信頼を勝ち得る一つの要因になります。難解なマーケティング理論を説明するよりも、クライアントと共感することで、プロジェクトの問題点を始めとする課題を共有してもらうことが重要です。
想像力を駆使すれば、その会社の問題が見えてきます。わからないことは質問し、自分の想像を確固たるものにしましょう。
問題を正しく発見し解決策を見つけるためにも、コンサルタントは高い質問力を身につけ、クライアントから確度の高い本質をついた情報を獲得しましょう。
(3)本質力とは
本質力は、“本質を見抜く力”で、洞察力、要約力とほぼ同じ意味で捉えられています。
まず、本質力を理解するためには、本質力を発揮するためのスタンスを理解する必要があります。
近年ビジネスの世界は日々進化しており、これまでの常識・経験則、過去の成功はすぐに淘汰される時代になりました。そのような時代に、過去にとらわれて仕事をしていては、間違いなく本質から遠ざかることになります。
本質を見抜くためには、過去や経験にとらわれることなく、常に事実ベースあるいはゼロベースでものごとを観察・理解し、偏りなくすべてにオープン思考で接するスタンスを持つことが必須となっています。
その上で、対象となるものを全体的、具体的、論理的に捉えなければなりません。
本質を見抜く具体的な手段・方法としては、論理的思考法(ロジカルシンキング)の思考ツールを活用することをお勧めします。
論理的に思考することで複雑なものが簡単になり、わかりにくいものがわかりやすくなり、また見えないものが見えるようになり、その結果ものごとの本質に辿り着けるようになります。
そして、ものごとの本質がわかれば、問題分析、課題設定、対策立案などの精度を格段に向上させることに繋がります。
本質を見抜く手段の一つとして、すでにご紹介した「5W1H」のフレームワークがあります。
5W1Hは行動理解のフレームワークで、Who(だれが)、When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)の要素で構成されており、それぞれの要素ごとに情報を具体化することで、その全容を整理し、本質を明らかにするというものです。
特に、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)の3要素は、本質を理解する際に欠かせない要素です。
また、多数の事実・情報をルールに基づいて収束させる「グルーピング」(=KJ法・親和図)も本質を見抜く思考ツールとしてよく活用されています。
グルーピングは、多数の事実・情報を同質のものごとにグループ化することで、分散した事実・情報を整理・収束し、その本質を明らかにするものです。
論理的思考法を代表する思考ツールですので、ご存じの方も多いことでしょう。
いずれにしても本質力を向上させるためには、対象となるものことを部分的、抽象的、感覚的に捉えるのではなく、全体的、具体的、論理的に捉えることが重要です。本質を見抜くための手段としては、論理的に分析できる思考ツールを活用することが推奨されます。
(4)仮説力とは
科学の世界では、ある現象を合理的に説明するための仮定のことを「仮説」と言います。この仮説は、実験・観察などによる検証が成立すれば定説となります。
一方で、ビジネスの世界では、仕事の結論を予め推定することを「仮説」と言います。
それでは、仮説の有無による仕事の進め方について見てみましょう。
仮説を取り入れず一般的な方法で仕事を進める場合、情報の収集・分析から始まり、その仕事の課題を抽出、さらに課題を解決すべく目標を立てます。
その後対策を実行するなどのステップを踏みますが、仮説を用いて仕事を進める場合、仕事を始めると同時に結論を推定し、即座に結論に向けて実行していきます。
仮説で仕事を動かすメリットは、仕事のスピードが上がることはもちろん、あくまでも仮説を前提で動いているため、内容の変更や取り止めなど、仕事に対する柔軟性が上がることです。
ただし仮説で動くことは、結果を見誤るリスクも同時に抱えることになるので、安易に仮説で動くのは危険を伴います。
仮説で動く場合には、仮説力つまりは適切に仮説を導く能力を持つ必要があります。
仮説力を養うには、日頃から多くの情報に触れる必要があり、同時に得られた情報から、今後起こるべき事象を常に推測する習慣を付けなければなりません。この習慣が定着すれば、ストレスなく仕事を始めると同時に結論を推定することが出来るようになります。
また、仮説で動いた仕事に対する結果の振返りも重要です。
仮説通りに動いたケースも動かなかったケースも、その要因分析は必ず行なう必要があります。
いわゆるPDCAサイクルを蓄積することは、仮説の精度を大きく左右するキーファクターになります。特に仮説通りに動かなかったケースの振返りを疎かにすると、再び同じ失敗を繰り返す危険性が高くなるので、十二分な原因分析をする必要があります。
仮説力に欠けるにも拘わらず、時間に迫られて安易な仮説で仕事を進めてしまうと、思わぬ損失に繋がる場合があります。
まずは仮説立てをしない仕事をサンプルに、仮説立てのシミュレーションを繰り返し、仮説力に磨きをかけることを心掛けましょう。
問題を発見し正しく課題を設定するのは難しいことですが、正しく課題設定することで、適切な問題解決策を生み出すことができます。
ビジネス上で何が問題なのか、解決すべき問題を見つけるための最も重要な材料は、クライアントからの情報です。広く深い情報を得たり本音を探るためには、コンサルタントが上手に質問できるかどうか。コンサルタントの質問力がプロジェクトを正しく進めるための鍵を握っているのです。
コンサルタントにとって質問力は必須スキル。質問することの意義を理解し、質問力を向上させ、営業力もアップさせていきましょう。
< 監修者プロフィール >
大野 晴司(おおの せいじ)
東京都立大学(現首都大学東京)卒業後、日産自動車で国内のマーケティング部門や系列ディーラーでの営業マンや本社販促部署長などを経験。中小企業診断士資格取得のために退職、2003年3月資格取得。その後、マーケティングリサーチ会社、自動車関連メーカーを経て、2008年にビズ・エキスパート株式会社を設立。神奈川・東京の中小・中堅企業の営業力・マーケティング力支援のほか、経営企画業務、新規事業支援を主な事業として活動中。また、企業向けセミナー講師なども務める。
ビズ・エキスパート株式会社:http://b-ex.biz/index.html
プロフェッショナリズムインタビュー:https://freeconsultant.jp/workstyle/w020
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)
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