ストレスチェック義務化進む、企業のメンタルヘルス対策
作成日:2016/10/26
ストレスに晒される現代人
上司との人間関係、同僚・部下との人間関係、会社の評価、少ない賃金、非効率なプロセスの強要・・・
皆さんも一つは心にグッとくるワードがあるのではないでしょうか。会社組織に属して仕事に従事している人は仕事と人間関係の狭間でストレスを感じ、フリーランスや個人事業主として活躍している方も似たような境遇で精神的な苦労をされていると思います。そう、これらは現代人が抱えているストレスを表しているワードのごく一部です。
景気低迷や不当な成果主義、労働人口の減少に伴う仕事量の増大など、昨今、ストレスを抱えない方がおかしい状況で現代人は働いています。このストレスは私たちの心身の歪みへとつながり、プロジェクトの生産性低下をもたらしたりと、より良い人生の足かせとなってしまう恐れがあります。これらのストレスの改善のために、政府は2015年12月から職場でのメンタルヘルス対策として、労働者の心理的な負担の程度を把握する検査(以下ストレスチェック)を1年に1回以上行うことを、従業員数50人以上の企業に対して義務化しました。
そこで今回は、政府が義務化したストレスチェックの概要と、それに対する企業側の動きについて、簡単にご紹介したいと思います。
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そもそもストレスチェックって?
厚生労働省が実施している「労働者健康状況調査」によると、仕事に関して強い不安や悩み、ストレスを抱えている労働者の割合は、調査が開始された昭和57年から直近の平成25年までの間、ずっと5~6割程度で推移を続けています。
過去1年間でメンタルヘルス不調により連続1カ月以上の休業、または退職をした労働者がいる事業所及び企業は、2013年には全体の10%にも上りました。こうした状況は今に始まったことではなく、政府はこれまでも職場でのメンタルヘルス対策を呼び掛けてきました。
ただ、皆さんもご存じの通り、こうした事態は一向に改善することなく、むしろここ最近特に騒がれている「ブラック企業」問題とも相まって状況は悪化しているようにも見えることから、政府のスタンスも今までの『お願い』から『義務化』へと移行した、というのが今回の義務化導入の理由と言われています。フリーランスや個人事業主のように、組織に守られていない方にとって、政府がメンタルヘルスを義務化することは就業状況の改善策の一つになると期待されています。
ただし、義務といっても現段階では特に罰則規定は設けられていませんが、事業者は労働基準監督署に実施状況を報告することになっています。ストレスチェックの実施を義務化した大きな目的は一次予防、つまり労働者自身のストレスへの気付きを促すこと、及びストレスの原因となる職場環境の改善につなげることを目指しています。そして副次的に、労働者のメンタルヘルス不調の早期発見・対応につながり得ると考えられているのです。
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企業側はストレスチェックにどう向き合っている?
義務化を導入され、企業側はどのような対策をおこなっているのでしょうか。
大手企業を中心に、多くは産業医やカウンセリング企業と連携して、社員に対するメンタルチェック診断が実施されています。この診断によりメンタルの不調可能性やストレス耐性、ストレス認識等が数値として表れるので、社員と企業(上司)がその数値を参考に働き方や業務内容を相談して業務改善され、企業はより適した部署やポジション等への配置変更を行いながら、社員がより健全に企業へ貢献できるように努めているのです。
「従業員支援プログラム(EAP)」と呼ばれるサービスを導入し、ストレスチェックの実施だけでなく、従業員へのカウンセリングや研修までを包括的に実施したり、社内のメンタルヘルス推進組織と連携してセルフケアや職場環境改善などの予防活動を行ったりする企業も増えています。また、ストレスチェックに対応したクラウドサービスやアプリなど、メンタルヘルス対策に多くの予算を割けない中小企業やフリーランス、個人事業主を支援するツールも続々と出てきています。
たとえば、スマートメディカル株式会社による「じぶん予報」は、音声を入力していくだけで自分自身やチーム全体の気分をチェックでき、従業員によるセルフケアや上長によるモチベーションマネジメントに活用できるアプリです。
また、日立製作所の「従業員健康管理クラウドサービス/ストレスチェック」など、ストレスチェックの実施からデータの管理・分析までウェブ上で行えるサービスもあります。これまで事後的で産業医任せになりがちな部分も多かったメンタルヘルス対策ですが、ストレスチェックの義務化をきっかけにこのようなサービスやアプリが登場したことで、それらを活用し、自主的かつ予防的な活動を行う企業が増えているのです。
ここで一社、実際に業務改善の1つとしてストレス対策を実施した企業様の事例をご紹介したいと思います。ご回答いただいたのは神奈川県でシステム開発やWEBページ作成・運営を営む、設立5年、社員数50名程度、年商約2億円のS社長です。
Q.ストレス対策を実施したキッカケはなんですか?
今まで5年以上会社を経営してきて、社員がストレスを抱えているとは思っていませんでした。しかし、大きなプロジェクト案件を前に納期に間に合わせるために社員総出で日夜仕事を詰め込んでいた時期もありました。約3ヶ月程度続いたと思います。いよいよ納期も目前、さ!ここから!という時に、社員の一人が突然会社に来なくなってしまいました。そのまま鬱状態だと判明し、しばらくして退職を余儀なくされました。
彼は社内でも指折りのプログラマで今般のプロジェクトを取り仕切っていた一人でもあります。人一倍責任感も強く、今回のプロジェクトをとても張り切っていたのでこのようなことになるとは思ってもみませんでした。社員がそこまで追い込まれていたことにショックを受けた私は、社員がもっと働きやすい環境を作るため、仕事に対しての辛さや想いを知りたいということがキッカケでした。
Q.導入しているストレス対策は何ですか?
導入している内容は、まず産業医と連携し、ストレスや悩み、不安等を抱える社員は自由に予約して診断を受けられるようにしています。まずは「話を聞いてもらう」ということが大切かと思い、診断内容に関しては会社に一切漏れないようにしてあります。
次に、年に2回ストレス診断を社員全員に実施し、ストレス耐性等を数値化しています。今後は彼のように無意識な追い込みを社員へかけないよう、会社自身が戒めを込めて社員のメンタルやストレスを把握することに努めています。
Q.ストレス対策導入の効果はいかがですか?
正直なところまだ目に見えての効果はありません。しかし、鬱や精神的な悩みで会社を辞めたり、休んだりする社員が出ていないことが効果といってもいいのかなと思っています。
Q.政府のストレスチェック義務化をどう思いますか?
私自身は、特に義務化されようとされまいとやることは変わらないと思っていますので、何も気にしていません。社員が気持ちよく、真剣に働いてくれる職場を作ることは、義務化されて行うのではなく、組織として当然におこなうべき案件だと今では考えているからです。
ストレスチェックを導入したキッカケはどうであれ、社員が気持ちよく、そして真剣に働ける職場を作ることが企業側の当然の役目であり、社員へきちんと向き合うために数値化や産業医連携が必要とのことでした。
従来、後ろ向きなイメージがあったメンタルヘルス対策ですが、今回のストレスチェック義務化をきっかけに、予防的で前向きな取り組みをする企業も増えてきています。「問題が生じてからの対応」ではなく「問題が生じないようにするための対策」と捉えて、職場環境の改善活動や社内の雰囲気作りも、重要なメンタルヘルス対策になるのかもしれません。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)