本当に“フリーランス減税”?2018年度税制改正の内容とは

作成日:2018/02/19

 

所得税改革が焦点となった2018年度税制改正

所得税改革が焦点となった2018年度税制改正

ついこの前、年が明けたばかりだと思っていたら、もう2月。フリーランスとして働く方も、仕事に追われつつ確定申告の準備にと多忙な毎日をお過ごしのことでしょう。

 

そんな年末年始の少し前、2017年12月14日に、自民・公明両党は、2018年の税制改正大綱を正式に決定しました。今回の税制改正では「所得税」が焦点となり、高収入の会社員が増税となるという話はさまざまなメディアでも取り上げられました。

 

その一方、自営業を営む方やフリーランスとして働く個人事業主の方は減税となるといわれています。国民年金や国民健康保険などの社会保険料が全額自己負担という重い負担に苦労するフリーランスにとっては、それが本当であれば喜ばしい話です。

 

本当に減税になるのかどうか、いつからどのように変わるのか、まずは税制改正の内容をきちんと理解しましょう。

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所得税改革のポイントは3つの控除見直し

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所得税を計算する際に課税対象から差し引くことができるのが、各種控除です。控除には、全員に一律適用される「基礎控除」、税法上控除対象となる配偶者がいる場合に受けられる「配偶者控除」、支払った医療費が一定額を超えた場合に受けられる「医療費控除」などがありますが、これらの金額が増えるほど課税所得が減り、納める税金が減ることになります。

 

今回の税制改正において柱の一つとなった個人所得課税の変更は、基礎控除」「給与所得控除」「公的年金等控除」という3種類の控除を見直すことによって、高所得の会社員などが原則的に増税となるというものです。基礎控除は、現在の38万円から48万円に引き上げられますが、所得が2400万円を超える高所得者は控除額が減額されます。具体的には、所得が2450万円以下の場合は控除が32万円、2500万円以下の場合は16万円となり、2500万円を超えると基礎控除がなくなります。

 

給与所得控除は、会社に勤めている方など給与を受け取っている方が受けられるもので、その金額は収入金額に応じて「収入金額の40%」から「上限220万円」まで決められています。この給与所得控除が一律10万円減額されます。ここまで見ると、会社員の場合は前述の基礎控除の10万円増額と相殺され、控除額はプラスマイナスゼロです。したがって、納める税金の額は変わらないということになります。

 

しかし、給与収入850万円以上の会社員の場合は、従来の上限220万円が195万円に引き下げられるため、結果として増税となります。さまざまな報道で「年収850万円以上の会社員は増税」といわれていたのは、ここからきています。ただし、家族に22歳以下のお子さんや、介護が必要な人がいる場合は、増税の対象外です。

 

最後の公的年金等控除は、年金収入がある高齢者が対象です。これについても10万円減額されますが、給与収入も年金収入もある高齢者は控除が二重に減額にならないよう配慮されます。これで増税の影響を受けるのは、年金収入や、年金受給者で年金以外の所得が1000万円を超える人のみです。

 

 

フリーランスが減税となるには条件がある

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それでは、上記の所得税改革は、自営業者や、フリーランスとして働く個人事業主にどのように影響するのでしょうか。まず、基礎控除については、所得が2400万円以下であれば、10万円引き上げの恩恵を受けることができます。次に、給与所得控除の10万円減額は、給与所得がなければ関係ありません。同様に、年金収入がなければ公的年金等控除もありません。つまり、相殺されてしまう控除減額がありませんので「基礎控除10万円増額」だけが残ります。ここまでであれば、確かに所得税が減税になるといえます。

 

しかし、今回の税制改正で、自営業者や個人事業主が影響を受ける要素がもう一つあります。それは「青色申告特別控除」です。青色申告特別控除は、自営業者や個人事業主が複式簿記に基づいて青色申告という形式で税務申告をすると受けられる控除で、最大65万円と非常に額の大きいものです。これが、今回の税制改正で55万円に引き下げられてしまうのです。そうなれば、給与所得を受ける会社員と同様に控除額が相殺されてしまい、差し引きゼロ。控除額は従来と変わらないということになります。これでは減税とはなりません。

 

ただし、ある条件を満たせば、実際に減税を実現することができます。それは、「税務申告を、紙ではなく電子申告で行なうこと」または「帳簿や関連書類など税務上の書類を電子保存すること」です。このいずれかの条件を満たした場合、青色申告特別控除の金額が従来の65万円のままとなり、ここでようやく減税となるというわけです。

 

電子申告が普及しないのには理由がある

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こうした制度で政府が狙うのは、電子申告・納税の仕組みを普及させることです。電子申告を普及させてインターネットで税務申告や納税の手続きを完結できるようになれば、納税者の利便性が高まり、正確な申告につながって自営業者の申告状況が正確に把握できるようになる――。

 

加えて、現在は、民泊やフリマアプリといったシェア経済の拡大や、インターネットで仕事の取引を行なうクラウドソーシングの普及を受けて、従来の仕組みでは税務当局が所得や取引の状況を把握しづらくなっています。そのような状況で課税漏れの発生を懸念した税務当局の思惑なども、この税制改正の背景にあるようです。

 

クラウド会計の利用も進む昨今、インターネットで完結するやりとりが進むのは一見メリットのあることのように思われます。問題は、日本の電子申告・納税サイトである「e-Tax」が非常に使いづらいことにあります。

 

e-Taxを利用するためには、電子証明書が組み込まれているマイナンバーカードか住民基本台帳カードと、ICカードリーダライタを用意しなければならず、さらにパソコンで電子証明書の取得やソフトのインストールといった準備をする必要があります。そのほか、Windowsパソコンでの推奨環境はInternet Explorerなど、そのハードルはかなり高いものといえます。インターネット上でもe-Taxのデメリットや失敗談が数多く見られるなど、システムの使い勝手は民間のクラウド会計ソフトのような練られたシステムとは程遠いというのが実状です。

 

税制改正が正式決定する前の2017年9月に開催された政府税制調査会によれば、個人の所得税申告におけるe-Taxの利用率は52%にとどまっているそうですが、その低さもうなずけます。これでは、フリーランスの利便性が上がるどころか、むしろ業務生産性の低下にもつながりかねません。

 

 

今回の税制改正で与党は、経済社会の構造変化の中で雇用の流動化や自営業者の増加といった働き方の多様化に着目し、控除のあり方全体の見直しを柱の一つに据えたという報道もあり、「フリーランスは減税」という見出しが散見されました。ところが、内容をよくみていくと、実質的に減税の恩恵を受けるには満たさなければならない条件がありました。

e-Taxでの申告には、24時間受付、添付書類の提出不要、還付までの期間短縮といったメリットがあります。何より、インターネットで確定申告を完結できれば、税務署へ行ったりいろいろな紙書類を用意することもなくなるのは大きなメリットです。しかし、そのメリットを享受するためには、導入のハードルが低く使い勝手のいい、業務効率を妨げることのないシステムが求められます。

今回の税制改正で決まった見直しは、2020年1月に行なわれることになっています。したがって、税務申告や納税への影響は、実際には2021年以降に発生するということになるでしょう。それまでの間、e-Taxを導入するか否か、これからの動向を見極めていく必要があります。

 

(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

 

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