社会人の学び直し「リカレント教育」の切り札!経産省が導入を進めるサバティカル休暇とは
作成日:2019/01/21
リカレント教育の推進とあわせ、働き方改革やワークライフバランスにつながる期待も大きく、今大きな注目を集めているサバティカル休暇。休暇とはいえ、企業に新たなビジネスチャンスをもたらす可能性もあります。そこで社員と企業、双方にとってさまざまなメリットがあるサバティカル休暇についてまとめました。
目次
■サバティカル休暇の定義とは?
(1)そもそも日本は長期休暇がとりづらい事情がある
■サバティカル休暇、どんな使い方がある?
(1)社会人の学び直し・スキルアップ
(2)趣味やプライベートの充実を図る
(3)ワークライフバランスにつなげる
■サバティカル休暇は企業にとってもメリットがある
(1)属人的業務を減らし、欠員が出ても業務の回る体制作りに役立つ
(2)メンバーの知見が広がり、スキルアップにつながる
(3)離職率を減らせる
■サバティカル休暇の課題
(1)サバティカル休暇を取得中に、どうやってリソースを補填するか
(2)サバティカル休暇の効果をどう見るべきか
(3)サバティカル休暇を取りやすい環境をどう作るか
■日本でサバティカル休暇制度を導入している企業事例
(1)ヤフーでは、サバティカル制度と勉学休職制度の2本立て
(2)製薬会社MSDでは、長期休暇中の副業ガイドラインを策定
(3)休暇中は基本給3割を支給!ファインデックス社のサバティカル制度
■まとめ
サバティカル休暇の定義とは?
サバティカル休暇は、長期間勤務している人へ与えられる長期休暇の制度。一般的には1か月以上のまとまった長期休暇を指します(長いものは1年というケースもあります)。休暇の用途を問わないのがサバティカル休暇の基本。なお、有給休暇扱いになるかどうかは、企業によって異なるようです。
サバティカル休暇は「研究休暇」と呼ばれることもあります。これは大学でサバティカル休暇が多く導入されているためで、日本でも東京大学や京都大学など多くの大学で導入されています。大学では教員が海外の大学で研究を行なったり、研修を受けたりする場合にサバティカル休暇が使われます。
政府の「⼈⽣100年時代構想会議」のテーマの一つとして扱われている、社会人の学び直し(リカレント教育)。とはいえビジネスパーソンの場合、仕事が忙しいため「大学などに通う時間が取れない」という大きなハードルがあります。そこで今政府が導入を推進しようとしているのが、海外でメジャーになっている「サバティカル休暇」。勤続年数が長い従業員に与えられるのが一般的です。日本ではまだあまり馴染みのないサバティカル休暇ですが、ヤフーやリクルートグループなど、サバティカル休暇を取り入れる国内企業も少しずつ増えています。
サバティカル(Sabbatical)という英語は、旧約聖書に出てくる「サバティカス(安息日)」に由来した単語。ヨーロッパをはじめ海外では大学のほかサバティカル休暇を導入する企業は多いものの、日本企業ではまだ少数派です。
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(1)そもそも日本は長期休暇がとりづらい事情がある
日本企業でサバティカル休暇を設けるところが少ない背景には、有給休暇が取りづらいという事情もあります。人材派遣会社ディップが行なった調査(※1)によれば、年間の有給休暇を取得した日数が5日以下という人が半数以上(51%)という結果になりました。海外と比べても日本の有休消化率は低く、エクスペディアが2017年に行なった調査(※2)によれば、日本の有休消化率は世界30か国中で最下位、しかも2年連続最下位という結果になりました。なお同じ調査によると、有給休暇の取得に「罪悪感を感じる」と回答した人の割合は63%に上り、日本が最上位という結果だったそうです。海外と比べても、日本のビジネスパーソンは有給休暇を取りにくいという状況が浮き彫りになっています。
旅行会社「エアトリ」が実施したアンケート調査(※3)でも、日本での長期休暇に対する考え方が表れています。この調査では海外のさまざまな働き方を紹介し、その中で理想的な休暇と日本で導入できそうな休暇を質問しました。その結果、理想的な休暇の1位がブラジルの「バケーション休暇」(1年のうち、30日連続で有給を付与)で約14%の回答がありました。一方日本で導入できそうかという問いでは、バケーション休暇は約8%と低い結果に。つまり日本でも長期休暇への憧れは大きいものの、現実的には長期休暇を取るのが難しいと考える人が多いことがわかります。
ちなみに、このアンケート調査で理想と現実の差が最も少なかったのが、オランダで導入されているという「労働時間貯蓄制度」でした。これは残業や休日出勤など時間外勤務をした場合に手当として受け取るのではなく、後日有給休暇に振り替えるという制度(タイム・バンクとも呼ばれています)。労働時間貯蓄制度はオランダ以外にもドイツやデンマークなどで一部の企業が採用していて、積み立てた労働時間をサバティカル休暇に充てるケースもあるそうです。労働時間貯蓄制度なら単純に有給休暇を取るよりも罪悪感が少なく済むため、日本でも導入しやすいかもしれません。
出典:https://www.hatarako.net/pr/2016/0802/
出典:https://welove.expedia.co.jp/press/31575/
出典:https://www.atpress.ne.jp/releases/158456/att_158456_1.pdf
サバティカル休暇、どんな使い方がある?
原則としてどんな用途でも取得できるサバティカル休暇ですが、主に3つのパターンに分かれるようです。
(1)社会人の学び直し・スキルアップ
最も代表的なサバティカル休暇の使い方と言えば、大学などで学び直しの時間に充てるというパターン。長期間休めるため、海外留学にチャレンジするケースもあるようです。ほかにも資格取得の勉強に充てたり、普段参加できない研修プログラムに参加したりという使い方もあります。
(2)趣味やプライベートの充実を図る
一方で旅行やスポーツなど趣味の時間に充ててリフレッシュを図ったり、さまざまな活動に参加してネットワークを広げたりするパターンもあります。一見業務に直接関係ない目的でも、新たな人脈が増える、普段と違う環境で活動することで新しい発想が生まれる、など仕事にプラスになる効果も期待できます。2020年には東京オリンピックのボランティア活動に参加するためサバティカル休暇を取得する、というケースも増えるのではないでしょうか。
(3)ワークライフバランスにつなげる
育児や介護など、家庭と仕事の両立を図るためにサバティカル休暇を活用する、というケースも今後増えそうです。現状でも育児休暇や介護休暇という制度はありますが、取得できる日数や回数にはそれぞれ制限があるのも事実。サバティカル休暇を組み合わせることで、より柔軟に対応できるようになります。例えば1か月間のサバティカル休暇を使って子どもの海外留学に付き添ったり、実家に戻って家族と介護の相談をしたりという使い方も想定されます。
サバティカル休暇は企業にとってもメリットがある
働く人にとっては、サバティカル休暇制度を使えばまとまった休暇が取得できるチャンス。先ほど紹介したように社会人の学び直しやスキルアップなどに充てられるという大きなメリットがあります。しかし実は個人だけではなく、企業にとってもサバティカル休暇は導入するメリットがあります。
(1)属人的業務を減らし、欠員が出ても業務の回る体制作りに役立つ
1か月以上の長期休暇を取る人がいれば、その間他のメンバーがリカバリーする必要が出てきます。その他チーム内で情報共有できる体制を整えたり、他の人でも業務がこなせるようマニュアルを整備したりという取り組みをするきっかけになります。属人的な業務が減りチーム単位で対応できる体制作りができていれば、サバティカル休暇に限らず、急な事情で出社できない人が出てもスムーズに業務を進めることができます。
(2)メンバーの知見が広がり、スキルアップにつながる
長期間仕事から離れ、学び直しや業務以外の活動を行なうことでより幅広い知識と経験を得ることができます。例えばサバティカル休暇を使って海外で経験を積んだメンバーが新しいビジネスアイデアを企業に持ち込んでくれる、ということも期待できます。メンバーにサバティカル休暇で新しいことをインプットしてもらい、企業にアウトプットしてもらうというわけです。
(3)離職率を減らせる
例えば今日本では介護のために仕事を辞める、いわゆる介護離職が年間10万人以上いると言われています。介護休暇などの仕組みとあわせて長期間休むことのできるサバティカル休暇を使えば、離職を防止することができます。人材不足深刻化という、日本の重要課題解決の糸口のひとつとして役立つかもしれません。
また日本では「周りの人が取っていないから、まとまった休暇を取りづらい」という事情もあります。そこでサバティカル休暇の制度を設けることで、家庭の事情があるかないかに関わらず長期休暇が取れるようになれば、より休暇の取りやすい雰囲気作りに役立ちます。
サバティカル休暇の課題
サバティカル休暇には多くのメリットがある一方、やはり長期間の休暇のため、企業にとって検討すべき課題もあります。
(1)サバティカル休暇を取得中に、どうやってリソースを補填するか
通常の休暇と違って、1年近く休むケースもあるサバティカル休暇。その間スタッフが不在の間どのようにカバーするかは企業にとって大きな課題です。特に普段から人手不足に悩む中小企業においては、短期の代替スタッフを採用するべきか、他のスタッフに業務を分担させるか・・・リソースをどう確保するかが悩みどころと言えます。なお海外の事例ですが、スウェーデンではサバティカル休暇中に失業者を代替要員として雇い入れるという制度もあります(※4)。これは労働者に学び直しなどの機会を与えると同時に、失業者にも働く機会を与えるという目的。日本でも今後こうした取り組みが広がるかもしれません。
参考情報:http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2005_3/sweden_02.html
また長期休暇で問題となるのが、復職がスムーズにできるかどうかという点。そこで休暇中でも定期的にリモートでやりとりをしたり、一部の業務を担当してもらったりするケースも考える必要があります。この場合リモートで業務ができる環境を整える必要があるでしょう。この場合データ漏洩などを防止するセキュリティ対策も必要です。
こうした課題は、サバティカル休暇だけではなく育児や介護などさまざまな休暇の場合でも起こりうることです。デメリットではありますが、働き方改革を進める上で必要な体制を整えるチャンスととらえることもできます。
(2)サバティカル休暇の効果をどう見るべきか
サバティカル休暇中に学び直しをした場合でも、復職後どのように企業に還元するかが見えにくいという課題もあります。特に有給のサバティカル休暇においては、企業としてもリターンを見据えた制度を設ける必要があるでしょう。休暇中にどう学び直しに取り組んだかについて報告してもらったり、その後のキャリアプランにどう活用するつもりか計画を立ててもらうというような取り組みが求められます。
一方無給のサバティカル休暇となれば、基本的に社員に使用用途を制限するのは難しいでしょう。あくまでリフレッシュしてもらう、やりたいことに取り組んでもらうというようなスタンスである必要があります。つまり企業が何を求めるかにあわせて、サバティカル休暇の制度を作るのが大きなポイントと言えます。この点がずれていると、企業側と社員側での目的がマッチしないという問題が発生します。
(3)サバティカル休暇を取りやすい環境をどう作るか
先述したように、長期休暇を取ることに慣れていない日本人。せっかくサバティカル休暇制度を設けても、実際に取得する人がほとんどいないという事態になりやすいのも事実です。海外の事例のように残業時間を積み立てて長期休暇に充てる制度を設けるなど、サバティカル休暇を誰でも取りやすい環境を整える取り組みが必要です。
日本でサバティカル休暇制度を導入している企業事例
数は少ないものの、すでに日本でもサバティカル休暇制度を設けている企業があります。いくつかすでに導入している事例を紹介しましょう。
(1)ヤフーでは、サバティカル制度と勉学休職制度の2本立て
日本でサバティカル休暇を導入している企業事例として、代表的なのがヤフー。2013年にいち早くサバティカル休暇制度を採用しました。ヤフー社のサバティカル休暇は10年以上勤続している社員に与えられ、取得できる期間は最長3か月となっています。サバティカル休暇中は無給ですが、支度金として給与1か月分が支給されるのが特徴。2017年3月時点ですでに55人が取得した実績があり、取得者の75%が「サバティカル休暇を通じて自身のキャリアの振り返りにとてもつながった」と回答しています(※5)。またヤフーでは自社のWebサイトにて、実際にサバティカル休暇を利用した社員の様子を掲載しています。
なお、ヤフーでは上記のサバティカル休暇とは別に「勉学休職制度」も2014年から導入しました。この制度は語学や専門知識を習得するためという位置づけで、最長2年間取得できるという点も、サバティカル制度と大きく異なります(勉学休職制度の方が、いわゆる本来のサバティカル休暇の概念に近いものと言えるでしょう)。
出典:http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg7/290313/shiryou3.pdf
(2)製薬会社MSDでは、長期休暇中の副業ガイドラインを策定
外資系製薬会社MSDでは、2016年から試験的に「ディスカバリー休暇」という長期休暇制度を設け、その後2018年6月に本格導入しました。勤続1年以上の社員が年間で最大40日間取得できる制度で、用途の制限はありません。試験的に導入した時には、大学院入学や海外ボランティアなどの活動に使われた事例があるそうです。またこの制度の導入とあわせ、副業のガイドラインも設定しています。サバティカル休暇導入に伴い、副業を行なう社員が増えることも想定しているのではないでしょうか。
ディスカバリー休暇の大きな特徴が、分割して取得することもできるという点。おそらく休暇の取りやすさを意識した施策ではないでしょうか。いきなり1か月以上の長期休暇を取るのは難しいという人でも、分割で休暇を取ることからはじめれば将来的に長期休暇の取得につながります。
(3)休暇中は基本給3割を支給!ファインデックス社のサバティカル制度
医療システム開発を手掛けるファインデックス社も、2018年5月にサバティカル休暇を導入しました。ファインデックス社のサバティカル休暇は、勤続10年ごとに6か月の休暇が取得できる制度。用途に制限はないものの、休暇中は基本給の3割が支給されるという点が特徴です。数少ない国内のサバティカル休暇導入事例の中でも、従業員数約200名という企業規模での導入は珍しく大きな注目を集めました。社員のスキルアップや人材流出防止といったメリットとあわせて、企業の知名度向上にもつながっていると言えます。
社会人が学び直しなどに役立てられる長期休暇が「サバティカル休暇」。経済産業省でもリカレント教育を広めるために普及させようとしています。サバティカル休暇は取得する人にとってスキルアップやワークライフバランスにつながる点が注目されていますが、実は企業側にもメリットがあるのが特徴。日本ではまだまだ長期休暇が取りづらい風土があり、現状はヤフーなど導入企業は少ないと言えます。今後は経産省の取り組みによってサバティカル休暇がどう広がっていくか、注目が集まります。
フリーランスの方がサバティカル休暇を導入する場合、取引先との調整など事前準備が必須でしょう。しかし、今まで「時間がない」「仕事が忙しい」という理由であきらめていたことも、サバティカル休暇という概念をベースにすればチャレンジできるかもしれません。
(株式会社みらいワークス FreeConsultant.jp編集部)
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