<プロが語る>Webマーケティング領域のフリーランス案件を解説
作成日:2021/04/16
「Webマーケティング」と聞いて何を思い浮かべますか?
YouTuberやインスタグラマーをはじめとするインフルエンサーや、YouTubeの再生前に入るCM、SNS広告、メールマガジンなどと色々想像できると思います。それほど身の回りにWebマーケティングが存在しているのですが、その実態はあまり知られていないのではないでしょうか。
Web上のほぼ全てのものは計測されています。計測できるということは数字化されること。あなたが見ているYouTubeチャンネルも、再生回数だけでなくそこからの情報拡散、エンゲージメント、クリック数などが即座に計測され、その数字をもとにさまざまな角度から分析されています。
この特性を活用し、商品やYoutuber、広告バナーなどに結果をフィードバック。それらの情報から諸々が改善され、よりよい商品やサービス、広告が生まれていくのです。
Webマーケティング自体は、誕生してからまだ30年も経っていません。まだまだ発展する余地が十分にある分野のため、今からこの領域に挑戦してトップランナーになれる可能性も期待できます。
今回は、スマートフォンマーケティングに広く精通し、企業/プロダクトのマーケティング戦略を支援しているプロ人材による、「Webマーケティングの体験談やフリーランスとして活動していく実際のトコロ」について解説します。
目次
■Webマーケティングとは
(1)Webマーケティングを行なう目的
(2)具体的にどんなジャンルの仕事がある?
(3)報酬額
(4)将来性
■<プロ人材体験談>フリーランスと会社員では何がどう違う?
(1)ライフワークとライスワーク
(2)報酬面は上げやすい
(3)「Webマーケティング」の職務内容は勘違いされやすい
■<プロ人材体験談>事例「本当に解決すべきは別にある!」/スマホゲーム
(1)売上とダウンロード数を伸ばしたい!
(2)本当に見直すべきは、要望された課題の外にあった~KPIの見直し~
(3)課題を明確に。知識を実作業で活かすということ
■<プロ人材体験談>事例「訴求すべき本当の相手は?」/小児向けのマーケティング
(1)マスメディアの限界。Webでプロモーションを展開したい!
(2)将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。訴求するべき本当の相手のポイントを突く
(3)身の回りでのマーケティング
※本コラムは、スマートフォンマーケティングに広く精通し、企業/プロダクトのマーケティング戦略を支援するプロフェッショナル人材が執筆しています。
Webマーケティングとは
(1)Webマーケティングを行なう目的
日本における「マーケティング」とは、企業がTV、ラジオ、雑誌、新聞のマスメディアと交通広告での情報発信を行ない、消費者とのコミュニケーションをはかる活動でした。
そこに、阪神淡路大震災をきっかけにインターネットが普及。情報発信の手段が一つ増えたことで大きな変化を迎える転換期となりました。
それから今に至るまで、皆さんもご存じの通りブログやSNSの発達、携帯電話の高機能化などによって、個人が手軽に情報発信できる時代へと突入したのです。
2001年から2009年の間に、流通情報量はインターネットだけでも約70倍増(※1)。情報過多の状態によって、マスメディアに広告を出稿するだけでは消費者に情報が届きにくい時代になりました。
そのような時代背景から、Web上でのマーケティング活動の重要性が高まり、Webマーケティングが生まれたのです。
こうして生まれたWebマーケティングの最大の特徴は、「短時間で広告効果を計測できること」です。
これまでのマスメディアは効果測定を実施するのにさまざまな調査が必要になり、また時間も要するものでした。しかしWebマーケティングでは即座に効果測定を実施でき、費用対効果をほぼリアルタイムで追いながら広告を運用することが可能になりました。
また、テキストだけだった広告クリエイティブ(広告のために制作された素材全般)は、技術の進歩により画像や動画を用いることが可能になり、さまざまなメディアが登場し広告が掲載されています。
このように、測定結果を見ながら目標への照準を合わせ、さまざまな表現やテクニックなどを駆使。そうして最大の成果へと導く仕事がWebマーケティングなのです。
(2)具体的にどんなジャンルの仕事がある?
Webマーケティングは、スキルごとにジャンル分けができます。
フリーランスの職種ジャンルは、広告運用、SEO、データ分析、コンテンツマーケティング、SNS運用、クリエイティブ制作、UI/UXデザイナー、そしてこれらを横断的に行なうコンサルティングなどです。
それぞれのジャンルでプロ人材に求められる業務や成果について、ひとつずつ確認していきましょう。
◆広告運用
GoogleやYahoo!、LINE、Twitterなどが提供する広告配信プラットフォームで、広告クリエイティブの入稿、入札調整、ターゲティングやクリエイティブ改善を実施し、レポーティングを行ないます。広告運用は、Webマーケティングにおける基本かつ肝といえるでしょう。
実作業が多くスキルも求められるため、大手代理店も外注することが多いようです。
広告を出稿する側だけでなく、広告を掲載されるメディア側の案件として、マネタイズ強化のための広告枠の運用を効率化したいという相談もあります。
◆SEO
検索エンジン対策(Search Engine Optimization ) を施し、検索に対して対象とするWebサイトを上位表示させることにより、認知の向上、顧客獲得につなげる施策です。
SEO対策に関わる業務は、検索されるキーワードの調査から、Webサイトへの技術的な対策の実装、掲載するコンテンツのディレクションまで多岐に渡ります。効果が出るまでに時間を要するケースも多いため、契約期間は長めになるケースが多いようです。
◆データ分析
さまざまなデータを統計的な手法で分析し、そのデータをもとにKGIに基づくKPIツリーの設計や、CPA、ROIから導き出した広告配信の予算分配など、意思決定の判断材料を提供します。また、分析によって得られた結果に基づき課題を明確化する必要があるので、Webマーケティングだけでなくビジネスの全体像を把握できる力が必要です。
◆コンテンツマーケティング
消費者や顧客へ有益な情報を提供し、商品の購入やサービスの導入を促します。
情報の提供手段はオウンドメディアの運用やSNSへの投稿をはじめ、メールマガジンや動画、ホワイトペーパーなど多岐に渡り、それぞれの特性を知る必要があります。また、SEO対策との連携も重要になるケースが多いです。
◆SNS運用
Facebook、Instagram、Twitter、LINE、YouTubeなどフォーマットの異なる各SNSにて、フォロワーやいいねを増やし消費者や顧客との関係値の向上を目的に業務を推進します。
各SNSの特性を理解しそれにあったコンテンツを投稿するだけではなく、キャンペーンを設計し実施まで担当することもあります。
◆クリエイティブ制作/ UI/UXデザイナー
クリエイティブ制作では、Web上のバナーや動画だけでなく、例えばホームページを構成するボタンをデザインし制作することもあります。
また、クリエイティブ制作と兼任するケースも多い役割にUI/UXデザイナーがあります。
UI(ユーザーインターフェース)とは、パソコンやスマートフォンの画面で見ることができる情報の全てのデザインのこと。UX(ユーザーエクスペリエンス)は、UIをはじめとした、商品やサービスから得られる“体験”のデザインを指しています。
例えば、「ある情報を入力する画面での離脱率を下げる」ためのEFO最適化(入力フォーム最適化)のスキルなどがあります。
◆コンサルティング
これらの業務を横断的に分析し、施策やマーケティング戦略の企画立案を行なったり、マーケティング組織を構築するのがコンサルティングです。定期的にミーティングを実施し、各種レポートからKGI達成に向けた課題点を見出し、改善方法などを提案します。また、新規事業立案の壁打ちなども含まれます。
より詳しく見ていけば、もっと細分化、スペシャリスト化しているジャンルもあります。
営業や広報など、Webマーケティングの範ちゅうではないさまざまな業務と兼任するケースも。SFAやCRM、MAなどの業務支援ツールの導入/運用なども、Webマーケティング業務の範囲に捉えられるケースもあります。
(3)報酬額
フリーランスとしての実績やスキル、業務内容、プロダクトの規模、フェーズにより大きく左右しますが、1案件あたり20万円〜70万円/月が一般的です。
また、勤務形態についてリモートと常駐を比べると、常駐の方が報酬額が高い傾向にあり、クライアントが大手企業であるほど常駐することが条件になる傾向があるようです。自身の状況に合わせ、リモートと常駐のバランスをどのようにコントロールするのか熟考する必要があります。
また広告運用やSEOなど成果が数字化できる仕事の場合、目標を達成すれば成果報酬が上乗せされるケースもありますが、ベースの報酬自体が低い場合に限られるようです。
(4)将来性
Webマーケティングは歴史自体がまだ浅く、そもそもこの領域の経験者が少ないため、人材自体が不足しています。
情報過多である現在、企業自らの情報発信の重要性がより増しています。また、商流としてEC(通信販売)の利用率が増え、生産者が商品を直接消費者に届けるD2Cブランドの躍進もあり、そのニーズは年々高まりを見せています。
代理店に依頼していたWeb広告の運用を、自社内で広告運用するインハウス運用へ切り替える企業も増えているため、社員へのティーチングを目的とした経験者の採用も増えているようです。
技術の進歩により手法は年々増えているので、これらの情報を素早くキャッチアップするセンスを磨き、努力を重ねていく事ができれば、仕事を獲得するチャンスは十分あると言えそうです。
<プロ人材体験談>フリーランスと会社員では何がどう違う?
(1)ライフワークとライスワーク
自分自身が興味のある仕事や好きな仕事を「ライフワーク」、生活していくための仕事を「ライスワーク」とよく呼びますが、会社員にくらべフリーランスは、ライフワークとライスワークのバランスが取りやすくなると感じます。
もちろん、生活していくための仕事で手一杯になることもあるかもしれませんが、私の会社員時代はライフワークとライスワークの意識が持ちにくく、目的が曖昧なまま仕事をこなすことがストレスになっていました。
会社員だと「普通に生活を送る」ということを意識する機会はあまりないかもしれません。しかしフリーランスになると、生活できるようにしていくことこそが明確な目標のひとつになります。その目標が据えられただけでも、ライスワークもメリハリをつけて取り組むことができるようになり、楽しみながらも懸命に働いた結果、年収を伸ばすことができました。
(2)報酬面は上げやすい
フリーランスになり、報酬面も大きく変わりました。例えば、私は「スマートフォンでのマーケター」、「事業側の経験があるマーケター」というニッチな人材であるため、スマートフォンでの活動がメイン事業の場合、経験を加味して高単価での契約を交渉する場合もあります。
このように、自身の経験を活かせる業務内容の案件をキャッチできれば、会社員時代と比べ報酬を大きく伸ばすことも期待できます。
(3)「Webマーケティング」の職務内容は勘違いされやすい
Web関連の仕事に携わる人ならよくあることだと思いますが、Webマーケティングの歴史そのものが浅いこともあり、案件獲得に向け営業をかけたクライアントから職務内容を勘違いされることが時折あります。
Webマーケティングというと「Webのことになんでも詳しい人」と思われがち。おそらく、Webの開発者やWebデザイナーも同じような経験をしているのではないでしょうか。
スタートからこのような勘違いが発生していると、「範囲外の相談で時間と労力だけが奪われてしまう」ということもしばしば。私も知人からよく相談されることのひとつです。
しかし、担当外の仕事だからと言って即座に対応を断るのではなく、どんな相談が来ても、適切な職種の人材に相談したり、適任者に仕事を紹介できるような人脈を確保しておくのがベスト。クライアントからの信頼度も上がり、フリーランス仲間との結束を強める良い機会になります。
また法人と違い、フリーランスのWebマーケターというだけで残念ながら警戒されてしまう場面があるのも事実。どのような活動を行なっている人物なのかを明らかにし、安心してもらうことも重要です。
<プロ人材体験談>事例「本当に解決すべきは別にある!」/スマホゲームの場合
(1)売上とダウンロード数を伸ばしたい!
スマートフォンのアプリゲームをリリースしたものの、プロモーションもマネタイズも目標数字に対して大きく乖離し惨事を迎えているという案件がありました。
これは、特に知名度や人気のあるIP(知的財産。キャラクターやマンガ、アニメ)を扱ったゲームによくあるケースです。私もそのような火事場を迎えている案件のご依頼をいただきました。
プロデューサー、ディレクターともにゲーム制作経験や運用経験がなく、「ダウンロード数を伸ばして売上を向上させて欲しい」というご依頼でした。売上とダウンロード数だけに指標を置いていたケースです。
(2)本当に見直すべきは、要望された課題の外にあった ~KPIの見直し~
私はまず、プロモーションの把握ではなくゲーム側の状況を把握することにしました。「売上」というKGIから、定量的に計測できる項目を用いてKPIツリーを作成し分析を実施。
よくよく見てみればダウンロード数もある程度あり、売上を支える要素の一つである課金率も予想より良かったのです。ただ、壊滅的に継続率が悪いことがこのゲームの最大の課題であることがわかりました。
この状態を立て直すことを目的にプロモーションを停止し、ゲーム内の課題の明確化とその課題を解決するための改善点をまとめ、ディレクターに改修を依頼しました。
改修は徐々に進み継続率が改善。ユーザーがゲームに留まるようになり、ダウンロード数に伴って売上を立てられる状態になったのです。
ここで改めてプロモーションを再開、ダウンロード数を大きく伸ばすことができました。
プロダクトの当事者だと目先の売上にとらわれてしまい気づけない点があります。それを明確化することにより、事業がうまく周り出すことをこの案件から経験しました。
(3)課題を明確に。知識を実作業で活かすということ
この案件で、分析を深め課題を浮き彫りにすることと、プロダクトに関わるメンバーとその課題に対して共通認識を持つためのフレームワークの重要性について改めて気づかされました。
知識として備えている分析方法やフレームワークを、日頃の実業務で意識して実践すること。それによってどのような結果がついてくるのかを体感することによって、知識だったものがおのずと本当のスキルとして身についていくはずです。
<プロ人材体験談>事例「訴求すべき本当の相手は?」/小児向けのマーケティング
(1)マスメディアの限界。Webでプロモーションを展開したい!
次にご紹介するのはこんなケース。とある子供向けの有料イベントの集客のご相談をいただきました。
このイベント自体は十数年前から定期的に開催されています。TV局やラジオ局、雑誌社が協賛に入っている関係上、プロモーションはマスメディアでの展開が中心になっていました。
しかしここ数年来場者が頭打ちになり、マスメディア中心のプロモーションではアプローチしきれてないのではないかと考え、Webでのプロモーション施策を検討したいとご相談をいただきました。
当初、主催者は子供がよく見るYoutuberを起用したいと考えていたようですが、予算の都合上実現できず、手の打ち方を考えていました。
(2)将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。訴求するべき本当の相手のポイントを突く
このご相談をいただいたときに、まずカスタマージャーニーを描いて子供が触れるWebメディアを探しましたが、そのようなWebメディアでは広告枠が限定されており、効果的ではないと想定されました。
ここで、改めてカスタマージャーニーを振り返り、あることに気づきました。
それは、行きたいと思うのは子供でも、その決定権は親にあるということです。そこでさらに過去のアンケートを確認してみたところ、アンケート回答者は母親が多かったことがわかりました。
今回のケースは使用者と決定権者が同一であるBtoCと思い込まれていましたが、実は使用者と決定権者が異なるBtoBのビジネスモデルに近しいと仮説を立案。決定権者である母親にターゲットを絞り、母親に対するアプローチを検討、実施しました。
まず開催地の沿線をターゲティングするため、位置情報が使えるSNS系の広告媒体からInstagramに特化。掲載するクリエイティブも、イベントの直接的な内容ではなくイベントで子供が楽しんでいる画を採用しました。「このイベントに来れば、子供が楽しんでいるインスタ映えする写真が撮れますよ」という訴求を行ないました。
その結果来場者は120%アップ。それだけではなく、SNSの投稿数も130%アップし、アンケートを分析した結果、Instagramが来場者増に大きく寄与していることがわかりました。
(3)身の回りでのマーケティング
今回の子供向け商材のように、保険や住宅などBtoCであってもサービスや商品の使用者と決定権者が異なるパターンが多々あります。この場合、使用者のペルソナだけでなく、決定権者のペルソナを含めたカスタマージャーニーを描く必要があるのです。
日々の生活の中でも「この商品はどのような購入者を想定しているのだろう」と考えることは、マーケティング力の鍛錬に役立ちます。実際の業務でそのような場面に出会ったら、より深く現実的に調べられる要素が増えるのでぜひ実践してみましょう。
さまざまな職種に分かれているWebマーケティングという仕事。会社員としての業務の中や、副業としても経験を積める職種です。
重要なのは、取り扱う商品やサービスはもとより、自社だけでなく他社の営業体制や事業体制など、それらを取り巻く環境を俯瞰で観察すること。Webマーケティングは、分析力が試される職種なのです。
今までの日本は「いいものを作れば売れる」社会でしたが、SNSの発達などから他のものと比較されるようになり、どのような「いいもの」であるのか、よりわかりやすい情報発信が求められるようになりました。
「いいものをよりいいもの」としてキャッチしてもらえるような仕組みを作り、より伝わりやすく工夫するのがWebマーケティングの醍醐味と言えるでしょう。
※本記事で書かれた内容はあくまで一例であり、すべての案件/プロジェクトに共通するものではありません。参考としてご覧ください。
<参照>
※1:https://www.soumu.go.jp/main_content/000124276.pdf
◆著者からのメッセージ◆
会社員と違い、フリーランスは待っていれば仕事が入ってくるわけではありません。独立したら「契約を取るためのマーケティング」が必要になります。その時に備え、会社員時代から準備しておくことをおすすめします。社内だけでなく社外の人からどのように見られているのか、自分にはどのような人脈があるのか、仕事に対してどのような評価を受けているのかなどを意識しましょう。それこそがマーケターの第一歩になるはずです。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)