“人は実体験したことしか教えられない” 自身の経験をもとに人事コンサルに邁進
営業マンから人事畑、そしてコンサルタントへの転身。過去の経験はすべて、現在の自分の武器になっている。
「コンサルタントのワークスタイル」、今回のインタビューは金光敦彦さん。
営業マンからスタートしたキャリアを通してのご経験をフル活用し、人事コンサルを手掛ける会社の代表を務めながら、ご自身も現場の第一線で活躍していらっしゃいます。
「人は実体験したことしか教えられない」という金光さんに、独立に至る経緯や、それまでのご苦労、コンサルタントとして大切にしていることなど、幅広いお話を伺ってきました。
金光 敦彦
今回のインタビューにご協力いただいたプロフェッショナル人材・コンサルタント
千葉商科大学卒業後、金融系企業、株式会社光通信を経て、2005年にソフトブレーン・インテグレーション株式会社(現ソフトブレーン・ヒューマン株式会社)を設立。2007年にハードアンドブレインコンサルティング株式会社に転職し、2008年に株式会社ジーエスを設立。
営業及び人事(採用・教育・組織制度作り)としての自身の実践経験に基づく行動改革研修や、採用コンサルティングを、中小企業・ベンチャー企業から上場企業まで幅広いクライアントに対して実施している。現在8社の社外取締役、顧問としても活動中。
株式会社ジーエス:http://www.gs-g.co.jp/index.html
金光 敦彦
インハウスの人事から人事アウトソーシング事業者を経て人事コンサルタントへ
- 人事コンサルがご専門の金光さんですが、新卒の時から人事のお仕事をなさっていたのでしょうか?
金光さん(以下、敬称略):いえ、新卒で入ったのは商品先物の会社で、金とかとうもろこしとか大豆とかを売るゴリゴリの営業マンでした。ほぼ100%個人向けの営業で、中小企業の社長さんとか個人事業主とかをターゲットにひたすら営業電話をするという仕事でした。その業界で2年間営業をやった後に光通信に転職して、まずOA営業を経験してから、人事に異動しました。
- 人事では主にどのようなお仕事をなさっていたのでしょうか。
金光:初めは子会社の人事だったのですが、最初の仕事はその会社で初めての新卒採用でした。当時、光通信本体は採用予算をたくさん使って集客して、優秀な人だけ厳選するような採用をしていたのですが、子会社は全然そんなことなくて。中でも特に僕のいたOA機器事業部は「地獄のOA機器事業部」って言われるくらい、いちばんガツガツしたウルトラ体育会系みたいな感じのとこだったので、「予算をかけるな、金じゃなくてお前らの体力と知恵を使え」と言われてまして(笑)。
だから本体に新卒採用のやり方を聞いても、全然そぐわないですよね。ある程度のベースっていうのは理解できるんですが、採用コストも本体みたいに一人あたり何十万も使えるわけじゃなくて、一人5万で200人採れみたいな話なので。
でもやってみたらとりあえず目標にしていた200人が採れて、コストも結果的には一人3万円ぐらいでした。とにかくローコストオペレーションで、自分ともう一人の社員で説明会と面接をフルに回して、あとはアルバイト2人くらいで来社のテレコールと入力をやるっていう方法で、帰るのは毎日だいたい終電。こういうこと言うとブラックって言われてしまうのですが(笑)。合同説明会みたいなイベントでも、今回は何人の学生の情報を持って帰るという数値目標を作って管理しながらやっていました。
- 当時、採用に関してそういうKPIを設定している会社は他にもあったのでしょうか。
金光:たぶんほとんどなかったと思いますね。2000年あたりなので、新卒を何百人単位で採る会社もほとんどなかったと思うし、ある程度大手で数百人規模を採用する企業だと、計画段階からリクルートに丸投げっていう感じだったのではないかと思います。リクルートの人にも「何千人規模の採用をアウトソース使わずに自社だけでやったところって他にないですよ」って言われましたから。
- そこからコンサルタントとして独立するまでの経緯を教えてください。
金光:採用の後は、社内の体制づくりとか退職者を減らす取り組みとか、いわゆる人が定着する仕組みっていうのを人事全体の横断プロジェクトのような形で他のセクションとの共同プロジェクトをやりました。
その後、大手法人・経営企画室に異動した時に、宋文洲氏率いるソフトブレーン株式会社の商材を扱い一緒にビジネスをやろうという話があり、途中で光通信側の事情でその話が頓挫したんですが、当時ソフトブレーンの会長だった宋文洲さんに出資してもらえることになりましたね。
それで、システム系の会社を設立しました。ただ、始めてみたらメイン事業は赤字まみれで、僕がやっていた人事アウトソーシング事業の方が少しずつ売上も上がってきていたので、最終的にはシステム系の事業はやめて、説明会代行とか面接代行、内定者研修、マネジャー研修などを請け負う人事系の会社に移行しました。
それからしばらくして、赤字も解消して事業も軌道に乗せた時点で、そろそろ自分でやろうかなと。ソフトブレーンの下にいる状態だとお客さんは大手企業も多いのですが、大手って本当に困っているかっていうと別にそんなに困ってなくて、逆にベンチャーとか規模の小さい企業は、採用とか研修よりもっと根本的なところに問題があるケースが多いですね。そういうのを経験するうちに、ベンチャー向けのことをやりたくなりまして。
あと、それに加えて、自分ももうちょっと勉強しないといけないのではないか、もっとゼネラリストにならないとお客さんが損してしまうのではないかっていう気持ちもあり、会社を辞めて独立してから、一回ちゃんと勉強しようと思い「ハートアンドブレイン」というコンサルティング会社に弟子入りしました。
半分社員みたいな感じで、勉強しながらお客さんも取ってくるし、案件もやるという状態で、売上も上げつつ、得意分野の採用や教育をもう少し突き詰めたり、そこに行きつくまでの組織行動学とか集団心理、リーダーシップ論、あとはマーケティングとか財務とか、そういうコンサルタントに必要なものをもう一回ちゃんと勉強して、いわゆるバックボーンをしっかりと身に付けるような2年間でした。
「天才型の人間ではなかった」ことが、今に活きている
- 大企業向けと中小企業向けのコンサルティングだと、例えば大企業は部分的にしか関われないものの金銭面での心配はない、一方でベンチャーだと金銭面は不安だけど総合的に改革できて相手の会社に与える影響も大きく、貢献している実感も強いと思うのですが、そのあたりのバランスはどのように考えていらっしゃいますか?
金光:ちょっと言葉は悪いのですが、独立当時は「大手からはお金を貰おう」と思っていました(笑)。例えばマネジャー向けの30人の研修をやる時に、大手だと一人当たりの研修コストって3~4万で組んでいるので、1日80万ですって言ってもまあそれぐらいですよねという感じで(笑)15人から20人くらいの研修でもでもむしろお客さんの方から、「予算は50~60万ぐらいでお願いします」というふうに言ってくれるわけです。
でもベンチャーだと、1日の研修に50~60万は払えない。ただ、大手向けの金額の中にはプログラム作りのコストも含まれているので、ベンチャー向けにやる時には、大手向けに作ったものをセミカスタマイズして、日程とか時間もある程度こちらの意向に合わせてくれるなら安くていいですよ、というふうにやります。そういう方法でもう6年ぐらいお付き合いしているお客さんがいるのですが、社員も20人ぐらいから150人ぐらいになっていて、売上もすごく伸びています。小さい会社の方が数字のインパクトが強いので成長が見えやすいですよね。
- 営業職向けのコンサルも手掛けていらっしゃいますが、営業系コンサルは一般的に「どういうところに売ればいいか」という戦略作りをする人の方が多くて、金光さんのように「どうやって売るか」というドウハウを教える人はあまりいないですよね。
金光:営業系コンサルをやる人の大半は、頭の中で色んな事を考えられる人か、天才的なトップセールスの人かのどちらか、なので「なんで売れないのか・・」がわからないですよね。
僕の場合は、最初に営業を教えてくれた人が「努力は怠るな」という考えをもった方で、僕がそこそこ成績を上げられたのも、その人にKPIも含め「管理すること」を厳しく教え込まれたからだと思います。ひたすらテレコールするとか、飛び込みするとか、とにかくお客様先に行って提案するとか、相手の性格や状況等その時に合わせた提案の仕方だとか、実体験させられて、ゴリゴリ教え込まれて、「楽をしたければ今のうち努力しろ」というような発想も含め、その人にはすごくたくさんのことを教えてもらいました。そういう意味では、「自分が特に天才型の人間ではなかった!」というのが今に活きているのかもしれません。3位くらいまで行くのですが、どうしてもNO.1になれなくて悔しくてね。
- ご自身で営業するのと人に教えるのは違う楽しみ、あるいは違う才能が必要なのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
金光:研修をやっている人間がこういうこと言うのもなんなんですが、トップセールスって恣意的に作り出すことはできないと思いますね。トップセールスになれるかどうかはもともとその人間が持っている資質で決まっていて、なる人は誰が教えてもトップセールスになりますよ。ただ、本当に難しいのは「今まで変われなかった人たちをどう変えるか」「売れなかった人たちにどうやって売らせるか」。その方が、難易度も高いし面白い。そういう人たちって不真面目なわけじゃなくて、努力の仕方がわからないのです。だから、一緒に成果を上げる為の取扱説明書(TO DOリスト)を作ろうよっていうことをやってあげたら、そこそこにはなりますよね。
- その難しいところに敢えて挑戦していく金光さんのモチベーションは何なのでしょうか。
金光:やっぱり最初に自分がそういうふうに教えてもらったからっていうのが大きいかなと。もしかしたら、成績が出ない人たちってあんまり教わってこなかったのではないかと思います。たまにあるのは、すごく成績のいいマネジャーの部下が育たないという状況。天才的な人たちってポンと自分で思いついちゃうのですが、下から見るとその「ポン」がわからないですよね。一方で、できる人はなんでできないのかがわからない。そういう人に習うと、一部の同じような天才型の人には伝わっても、普通の人たちにはたぶん伝わらないですよね。
実体験にもとづいたコンサルティングへのこだわり
- 今後も教育や人材開発の分野を続けていくご予定ですか?
金光:そうですね。やっぱり人に相対するっていうのがすごく面白いし、性に合っている。何をするにも人って重要じゃないですか。お金があったらいい人が採れるかっていうとそうでもないし、仮にいい人を採ったとしても、その人が活躍してくれるかどうかはまた別の問題で、その会社の組織風土とか周りにいるメンバーで全然違う結果になる。そういう意味では、人がいるベースや土壌づくり、いかに育てるかっていうことが企業経営上もすごく重要かなと思うので、今後もそっち側をやりたいっていうのはありますね。
- 今後、会社の規模拡大に関してはどのように考えていますか?
金光:僕はあんまり数の理論にはこだわっていませんよね。例えば人事コンサルをやっている会社って、何人かのコアメンバーで立ち上げた最初の頃は能力もマインドもみんな同じレベルでやっていますが、規模が大きくなって案件数が増えてくると、新卒1年目2年目の人間にもコンサルさせてしまうケースが多い。で、だいたいダメになる。組織の限界が見えてくるわけです。
まぁ、人は少しずつ増やしていきたいとは思っているものの、まずは教えるのが好きっていうのが大前提だし、自分が実体験したことじゃないと教えられないと思っているので。だから、例えば営業コンサルやりたいのなら自分が営業をひたすらやった人じゃなきゃだめだと思うし、人事コンサルをやるであれば、単なる面接官だけじゃなくて予算取りから計画から実行まで全部のフェーズを自分でやったことがあるっていう人じゃないと、コンサルは出来ないのではと思いますね。
- 最後に、金光さんがコンサルティングを提供するに当たって大事にしていることは何ですか?
以前、ハートアンドブレインにいた時に、「評論家にだけはなるな」っていう教えがあったのです。例えば、資金繰りが悪くて売上が上がらなくて何とかしてほしいって頼んできているのに、お金だけ使わせるような戦略とか、やればまあ売上は上がるかもしれないけど、それをまた回収するのにどれだけかかるのかっていうような戦略を与えても、体力がもたなかったら途中で死んじゃうでしょと。お金は当然使ってもらうべきところには使ってもらわなきゃいけないのですが、いかにしてその会社が復活するのかとか、自分がその金を払う側の人間だったらその提案に対して金払うのかっていうところまで考えろ、と。
人は自分でできないことは教えられないし、理論を並べるだけなら、それは単純にテキストを渡して読んどいてねっていうのと同じです。昔あるクライアントさんに、「いろんなコンサルタントの人に会ってきましたけど、簡単なことを難しく言うのが得意ですよね」って言われたことがありますが(笑)、それではだめだと思うのです。難しいことを簡単に伝えなくては。本当に自分で色んな経験を積んできて、乗り越えて来た本物のコンサルタントは、逆に難しいことを簡単に教えてくれますよね。だから、自分もそういうふうになりたいし、クライアント様と一緒の目線で、一緒に汗かいていけるようなコンサルタントになりたい!と思っています。
- 本日はお忙しい中、貴重なお話ありがとうございました!
実務経験をもとにした実効性の高いコンサルティングにこだわる金光さん。インタビューの最後におっしゃった、「現場が大好きだし、自分でもずっとコンサルをやりたい」という言葉がとても印象的でした。
コンサルティングファーム出身であるという肩書による自信ではなく、ご自身のご経験に裏打ちされた揺るぎない自信を武器に、コンサルタントとして独立し活躍されている金光さんのお話は、コンサルティングファーム出身ではないからという理由で独立を躊躇している方や、自分に独立コンサルタントが務まるのだろうかと不安を感じて踏み出せない方にも、大きな勇気を与えてくれたのではないでしょうか。
みらいワークスは、コンサルタントとして独立したいと考えている方を一人でも多く支援すべく、これからも挑戦する方々を応援します。