最後の資本主義市場「アフリカ」を舞台に、ビジネスと途上国支援の両立を目指す
「起業したい」という気持ちの根源にあったのは、家族への想いだった。
コンサルタントのワークスタイル、今回のインタビューは室伏陽さん。
コンサルティングファーム2社を経て、知り合って間もない方と共同で起業し、アフリカで中古車販売のECサイト事業を手掛ける会社の副社長を務めていらっしゃいます。大胆なご経歴とは裏腹に冷静さと穏やかさを持ちながら、アフリカの支援にもなるようなビジネスの確立を目指す熱い心も兼ね備えている室伏さん。愛情深く内省的な起業への想いから、壮大なビジネスの展望まで、続編を読みたくなるようなお話が盛りだくさんです。
“プラットフォームのような家族を作る”ための手段として起業
- 室伏さんは以前から起業を志していたとのことですが、その理由は何だったのでしょうか?
室伏さん(以下、敬称略):昔から“努力ができる”という点については自信があり、努力の方向性についても自分が納得できるものにしたいと常々思っていました。「自分で一からデザインできて、努力のすべてが結果に反映される」という意味で、起業はひとつの手段だと学生の頃から考えていました。研究職に就こうと思った時期もあったのですが、私が専攻していた生物系の基礎研究というものは成果が出てから10年後くらいにやっと称賛を受けるような世界で、しかも研究テーマによって人生がかなり左右されるという宝くじのような要素もあったので、次第に「そういう場で自分の人生を棒に触りたくはないな」、「もう少し成果が早く見えるようなことをやりたい」と思うようになりました。
そんな中、ある企業との協賛研究で「研究をいかに社会に還元させるか」、「研究の成果が活かされる仕組みをいかにして作るか」ということを考えるようになり、その“仕組みを作る側”であるビジネスに興味がわき始めたのをきっかけに、ビジネスを創るお手伝いや修業ができるコンサルティング業界に関心を持つようになりました。
- ではコンサルティング業界を選んだ理由も、起業準備として最適だからだったのですね。
室伏:そうですね。起業を見据えて、小さな会社を丸ごと見ることで「経営とは何か?」ということを学びたかったので、コンサルティングファームの中でもクライアント規模の小さいファームを志望していました。
- なるほど。その志望通り、規模の異なる2社のコンサルティングファームを経験されていますが、実際に独立するタイミングはどのように決断されたのでしょうか?
室伏:山田ビジネスコンサルティングとデロイトトーマツコンサルティングに、それぞれ2年半ずつ足掛け5年在籍していたのですが、前者では小規模な会社を全体的に見て、後者では大きな会社の一部分をチームの一員として見るという経験をしました。
5年間で、規模の面でも大から小まで、かつ多岐にわたる性質のプロジェクト・業界・サービスメニューを見ることができたので、一応頭では理解できたという状態になったのですが、一方で自らプレイヤーとして実際に事業を興すという点についてはコンサルティング業界では難しい。5年が経つ頃には事業会社への転職もしくは起業をするという選択肢のいずれかを見据えていました。
- そうなのですね。コンサルタントを長く続ければ続けるほど起業から遠ざかってしまうような怖さもあったのでしょうか?
室伏:あったと思います。ビジネスはリスクテイクできるかが勝負ですが、コンサルではリスクをいかに回避するかを最初に考えます。コンサルタントとしての道というのはあくまでアドバイザリーの道であって、プレイヤーとしての道とは違う方向に分岐していく感覚がありました。その感覚が徐々に強くなっていくことに危機感を感じていた部分もありました。
ただ、山田ビジネスとデロイトのコンサルティングは見る対象がまったく異なっていて、どちらか片方だけに在籍していては学べなかったこともたくさんあったので、コンサルタントとして規模の異なる2社を経験できたのは私の強みになっています。
- 今回、他の方と共同で起業されていますが、先程おっしゃった「努力がそのまま成果として現れる」という意味では、お一人で起業するという選択肢もあったのではないかと思います。共同での起業に至った背景にはどういった理由があったのでしょうか?
室伏:最初から誰かと一緒に起業したいと思っていたわけではないので、たまたま一緒にやることになったというのが正直なところです。
起業するためにいくつかのビジネスアイディアを考えては財務シミュレーションを回し「リスクに対するリターン(ビジネスの”うまみ”)が少ないな」と思ってやめる、ということを繰り返していました。そんな中、代表の篠田と出会いました。彼は自動車部品の海外輸出部門を自ら立ち上げた経験を持ち、その経験・知見を基にアフリカでもビジネス展開すべく起業の準備を進めていました。その場合、既存の仕入・販売チャネルを活用してスタートできます。試しに財務シミュレーションを作成し回してみたところ、ビジネスとしての”うまみ”もある程度期待出来たので、起業のファーストステップとして彼と協力するのがベストと考えました。「リスクテイクできるかが勝負」とは言ったものの、もちろん大きなリスクを取ればいいということではなく、リスクに対するリターンが確実に見込めることが重要となります。そのためには、そのビジネスにおいて「いかに最初のお金の流れを作るか」が重要かつ一番難しいので、その基盤が最初からあるというのは非常に大きいなと。
- なるほど。非常に冷静ですね。ところで、先程おっしゃった“うまみ”の有無というのは何によって決まるのでしょう?
室伏:リスクおよび投下する労力(負荷)・時間に対して、どれだけの収入が期待できるか、によって決まります。コンサルタントとして働いていた頃のうまみは中くらいかちょっと少ないかなというのが正直なところなので(笑)。少なくともそれよりはうまみがあるビジネスがいいなと。
- ご自身の労働に対するROIが一つの軸になっているということでしょうか?
室伏:シンプルに言うとそうですね。“夢を語れるビジネスがいい”とか“わくわくするビジネスをやりたい”とか、目指すところは人によっていろいろあると思うのですが、私の最終的なゴールは“プラットフォームのような家族を作る”ということです。簡単に言うと、家族が時間的・経済的・精神的制約無くやりたいことをチャレンジできるような家族を創りたい、ということです。例えば奥さんが「花屋をやりたい」と言ったら「チャレンジしてみれば?」と言いたい。それで1回くらい失敗しても問題ない程度のアセットを持っておきたいのです。
もちろん家族にはお金だけではなく愛情や時間も費やしたいので、“自分の可処分時間を自分でデザインできて、かつ結果さえ出せば収入を得られる”という意味で、起業は自分のゴールに近づくためのひとつの手段、というのが私の考えです。
偶然の出会いを経てアフリカでのビジネスに参画
- お若いのにとても冷静かつ落ち着いていらっしゃる室伏さんですが、アフリカという巨大市場で中古車のECサイト販売事業を選ばれた理由は何だったのでしょうか?
室伏:ポジティブなマクロ情報や財務シミュレーションの結果から判断した部分もあるのですが、理由は大きく2つあります。
まずひとつはビジネス上の観点からの理由で、東アフリカは右ハンドルの地域で日本車が非常に好まれるのですが、既にマーケットがあるものの後発として参加してもまだパイは残っているので、売上を獲得できるまでのタームが一から市場を創るよりも短いという点です。もうひとつは歴史的な観点からの理由で、日本が昔から続けてきたアフリカへの支援、これに対するリターンを得られるような環境を整えたいというものです。日本は高度経済成長期からアフリカに対してさまざまな支援を行ないましたが、ビジネスとしての進出には成功しているとは言えません。一方、中国はそれを虎視眈々と進めています。昔から無償で支援をしてきた経緯を持つ日本がそこでリターンを得られていないというのはおかしい、という想いがあります。
「資本主義最後のフロンティア」と言われているアフリカ市場において日本企業の価値がより認められる様、今後進出される企業のお役に立ちたいという想いもあります。具体的には、アフリカ市場でのテストマーケティングの機会を提供するコンサルティングサービスの準備を現在進めております。今のところ、日本が圧倒的に優れている産業が自動車で、それ以外の産業はまだ負けているので、まずは車という切り口で攻めることでキャッシュを手に入れ、そのあと農業・物流・通信の分野でもビジネスを展開していきたいと思っています。
- アフリカという地域にはもともとご興味がおありだったのですか?
室伏:いえ、デロイト時代にアフリカ専門部隊の方々と交流があって少し興味を持っていた程度です。コンサルタントとしてアフリカを扱ったこともありませんので、今回の決断は自分でも思い切ったなと、思っています。
- 一緒に起業なさった他のお二方とはどこで出会われたのですか?
室伏:私以外の2人がまずタンザニアの「サバサバ」という商業祭で出会い、そのあと私と出会ったのですが、きっかけは私が個人的にやっていたコンサルティングのクライアントだった方のご紹介でした。考えてみればあれからまだ5ヶ月くらいなので、かなりの急展開ですが(笑)。
- それは室伏さんの方から紹介してほしいというお話をなさったのですか?
室伏:初めはそのクライアントの方から「アフリカについて調べてくれないか」という依頼を受けていました。理由を聞くと、アフリカでの起業を検討している知り合いの手伝いをしたいとのことだったので、その流れでお知り合いの方に直接会うことになりました。その知り合いというのが社長の篠田なのですが、クライアントの方と共に篠田と食事をしたところ、ビジネスの話に花が咲き、「面白い。ぜひ一緒にやらない?」と言われて今に至る、という流れです(笑)。篠田曰く「フィーリングが合ったから誘った」とのことです。
- へぇー!そんな経緯があったのですね(笑)
各々の強みを活かした分業体制で急成長する巨大市場に挑む
- そういった出会いを経て今に至っていらっしゃいますが、お一人で起業を検討していた際に採用しなかったアイデアにはどういうものがあったのですか?
室伏:本格的に検討したのは2つあります。ひとつはコワーキングスペースの提供で、私がコンサルタントとして常駐して、経営に関するよろず相談に対応するというものです。ただ、そのビジネスは家賃などの固定費が高く、うまみとしては今ひとつ、と結論づけました。もうひとつはレンタル防音室です。私は趣味でトランペットをやっていて、自宅にも防音室があって日々練習しているのですが、都内だと管楽器や弦楽器の練習場所を確保するのに苦労します。ですので、仕事帰りに寄ることができる防音室があれば、そういった方々に練習場所を提供出来ます。平日のちょっとした時間を趣味に費やすことで人生に潤いをもたらすことが出来ると感じていたこともあり、ビジネスとして回していけるかを検討してみました。しかし、そのアイデアでは、防音室や楽器を最初に用意する必要がありますし、地代家賃も発生します。更に、最初は常に自分が常駐して管理する必要があるので、これもうまみが少ないなと(笑)。ビジネスを立ち上げる際にネックになるのはやっぱり固定費です。まぁでも、そういうことを必死に考えたおかげで、数字感覚が洗練された気がします。
-なるほど。今おっしゃった2つのビジネスはご自身の経験から発想されたものだと思うのですが、今回のアフリカのビジネスは室伏さんのご経験とはまったく関係ありませんよね。そういったビジネスに挑戦することへの抵抗はなかったのでしょうか?
室伏:なかったわけではないのですが、代表の篠田が経験者なので「得意なところは得意な人に任せよう」、「自分はサポートしかできない」と割り切っています。とはいえ、コンサルティングについては私が経験者なので、こうやってみらいワークスさんにお世話になったり新規営業を行なったりといったコンサルティングに関わる仕事は私が主体となって進めています。それぞれの強みを活かした分業体制を採っています。
-現時点では今のビジネスをどれくらい続けるご予定なのですか?
室伏:一応、今の借入を使い切って資金がショートしてしまったら一旦解散するということにしています。ですので、あまり下手なことはできません。ただ幸いなことに、中古車に関しては他にもプラットフォームがあるので、自分たちのサイト以外にも販売できる場はあります。さらに、自動車部品に関する既存のチャネルなども活用すれば、売上がゼロということにはなりませんし、3人分の給料は頑張り次第で捻出可能と見込んでいます。
-発展途上国が経済発展を遂げていくスピードというのは衝撃的なものがあると思うのですが、そういう環境でビジネスに挑戦するというのは間違いなく面白いですよね。
室伏:そうですね。私が知っているだけでも既に10社くらいの大企業がアフリカでビジネスを始めていらっしゃるのですが、皆さんやっぱり苦労されています。アフリカビジネスでは、システマティックに動くより、まだまだ草の根的に動く方が機能することが多いので。今ならベンチャーの草の根運動のようなやり方で価値が出せる部分があるので、起業の対象としては面白い環境だと思っています。
いずれ現地の方々と協力していくことで、彼らに“正しく努力して、正しくリターンを得て、生活に張りや潤いを持たせる“というのはビジネスの持つひとつの力だと思いますし、ビジネスの根本的な価値もそういうところにあると思っていますう。また、それは決して「支援」だけでは実現できないものだと思います。将来的に、現地の貧困層に当たる人々まで巻き込んでビジネスを回していくことを視野に入れて活動していきたいと思っています。
-本日は貴重なお話をありがとうございました!どうぞお身体にだけはお気をつけください。また2、3年後にインタビューさせていただける日を楽しみにしております。
それまでのご経験とまったく無関係のビジネスに飛び込んだご経歴、そして28歳という若さから、勢いで起業の道を選ばれたのかと思いきや非常に冷静で内省的な起業家の姿が浮かび上がるインタビューとなりました。一言で起業と言っても、その背景にある想いや目標、歩んでいく道は十人十色です。みらいワークスは、起業家のみなさんのさまざまなワークスタイルをご紹介することを通して、未来に向けて挑戦したいと思っている方々の背中を押す、そんな存在でありたいと考えています。