RPAとの出会いで抱いた「仕事がなくなるのでは?」という危機感 RPAコンサルタントが語るRPAとの出会いから現在
技術の進歩が著しい昨今、「人間がロボットに仕事を奪われる」という話も現実味を帯びてきました。とはいえ、「コンサルタントの仕事はそう簡単には代替されない」と思っている方も多いのでは?果たして本当にそうなのでしょうか?
みらいワークスがお届けする「プロフェッショナリズム」、今回のインタビューは2016年6月にもインタビューに応じてくださった藤丸健太郎さんが再登場。
あれから約2年、その間もさまざまなプロジェクトに参画してこられた藤丸さんですが、とあるプロジェクトでRPA(= Robotic Process Automation)に出会ったことで、ご自身のスキルと今後に危機感を抱いたそうです。その危機感とは何なのか?そして藤丸さんが起こしたアクションとは?昨今のビジネスシーンを賑わすRPAにご興味のある方は必見のインタビューとなりました。
藤丸健太郎
今回のインタビューにご協力いただいたプロフェッショナル人材・コンサルタント
明治大学文学部卒業。事業会社にてシステムの企画・設計や財務・会計の実務に携わった後、コンサルティングファームに転職。コンサルタントとして管理業務全般のソリューション提供に従事。事業会社において数々のプロジェクトを立ち上げて成功に導いたのち、2013年7月にフリーランスのコンサルタントとして独立。大手物流会社の次世代システム構築プロジェクトなど、数々の事業会社にてプロジェクトを担当するなどして活動中。 ◆初回インタビューはこちら:https://freeconsultant.jp/workstyle/w006
藤丸健太郎
RPAとの出会いで抱いた「仕事がなくなるのでは?」という危機感
今回はRPAについてお話を伺えればと思うのですが、まずは藤丸さんがRPAに出会ったきっかけについて教えてください。
藤丸さん(以下、敬称略):きっかけは、昨年3月に始まった証券会社でのBPRのプロジェクトでした。私はフリーランスのコンサルタントとして経営企画に所属していたのですが、証券会社という業種柄、たくさんの上場予定のベンチャー企業がサービス説明に来るので、業務改善に使えそうな情報が耳に入ってくるわけです。そんな環境下で、とあるRPAの企業と知り合ったのが初めての出会いでした。
当時はまだメディアもほとんどRPAを取り上げてはいなかったので、恥ずかしながら私もほぼ知識のない状態でした。ところがその企業との出会いをきっかけにいろいろ調べたところ、コンサルタントとして提案すればクライアントに対して高い効果を発揮できそうだということがわかってきました。現在は実際にRPAを使った業務改善を進めている最中です。
クライアントである証券会社がRPAの企業と取引をしていなかったら起こりえなかった出会いだったのですね。とはいえ、敢えて未知の技術であるRPAを活用しようと思われたのはなぜだったのでしょうか?
藤丸:従来のBPRよりも即効性があると判断したからですね。通常のBPRでは業務の標準化などさまざまな事前準備を経る必要がありますが、RPAを使えばそういった手間をかけずにいきなり自動化ができ、人的コストを削減できる、そしてシステムではなくRPAを導入した方が早く効果が出る、これがRPAの活用を決めた理由でした。
それに加えて、以前担当したシェアードサービス会社の立ち上げプロジェクトで感じたことも、RPA導入を決断する後押しになりましたね。そのプロジェクトでは、未経験者でもすぐに業務が回せる状態にするために業務の標準化や簡素化を徹底的に行なったのですが、その結果、そこで働く人たちは皆ロボットのように“処理”をするだけになったのです。当時はそれ以上の提案はできませんでしたが、RPAについて調べていくうちに「もしあの時知っていれば、シェアードサービス会社にもロボット化の提案までできていたかもしれない」という思いが強くなりました。
さらに言えば、「今後RPAが普及していくと、BPRという自分のコンサルスキルは確実に陳腐化する」という危機感も持ちました。「仕事がなくなってしまう」という焦燥感、最近よく聞く“人の仕事がロボットに奪われる”という話が現実になりつつあるという感覚を抱いたのは、おそらくあの時が初めてだったのではないかと思います。
そんな背景もあってRPAを調べ始めたところ、会社という組織に導入するにあたっては問題もたくさんあるということがわかったので、現在はそういった問題を見つけ出して解決策を講じるという観点でのコンサルティングを行なっています。
フリーランスになると周りからアドバイスを貰える機会も少なくなります。その中で、自ら危機感を抱いてスキルアップのための努力をするというのは、長く第一線で活躍するためには必要不可欠なのですね。ところで、「RPAを会社に導入するにあたって発生する問題」とは、具体的にはどういうものなのでしょうか?
藤丸:言い換えれば、「会社の仕組みを崩さずにRPAを導入するために解決しなければならない問題」ですね。例えば、RPAではロボット用のパソコンを用意することが多いので、“人”は入社していないのにネットワークにログインするための“ロボット”のアカウントを新規発行する必要が出てきます。ネットワークにログインしたタイミングで出社記録を取っている会社であれば、その記録の取り方も変えなければならない。ロボットに業務システムを操作させようと思えば、ロボット用の新たな権限を作らなければならない。細かい部分は会社によって異なりますが、そういったさまざまな問題が出てきます。
RPA導入が既存の仕組みに影響を及ぼすポイントは何かを理解して、それに対する最適な解を導き出す必要があるので、難易度は高いですね。
RPA導入支援で発揮されるコンサルティングの価値
即効性が見込めるとはいえ、ほぼ知識のない状態からコンサルティングができるまでに到達するには、大変なご苦労があったのではないですか?
藤丸:初めはやはり大変でしたね。マニュアルと呼べるような資料もなかった上に、当時はほとんどのツールが海外製だったので基本的に何もかもが英語でした。ツールによって操作感もまったく違うので、すべてのツールのすべてのメニューを触ってみるところからのスタートでしたね。しかも、そうこうしている間にプロダクトもバージョンアップを重ねるので、その都度新しい機能をキャッチアップしながら・・・まさに試行錯誤の連続でした(笑)。
本当に手探り状態だったのですね。これからRPAに関するコンサルティングに携わりたいと考えているフリーランスのコンサルタントの方も多いと思うのですが、必要な素養は何だと思われますか?
藤丸:もちろんITの知識やシステム的な考え方は必要だと思いますが、それに加えて情報セキュリティや内部統制に関する知識も必要です。先ほどお話ししたように、実際に導入する際には既存の仕組みを崩さないための調整が必要になりますから。
個人的には、コンサルタントがロボットを作るところにフォーカスするのはよくないと思っています。興味のある人もいるでしょうし、やればできてしまう人もいると思うのですが、RPAを構築する側の仕事には既にシステム開発の現場からエンジニアが移り始めていますので、その領域はエンジニアの皆さんにお任せした方がいいのではないかなと思いますね。
コンサルタントは導入時のさまざまな障壁を乗り越えるためのサポートスキルを身に付けた方がいいということですね。RPA構築のスキルは、ゆくゆくは現在のエクセルのような位置づけになっていくのかもしれませんね。
藤丸:同感です。既にRPA構築の研修を始めている派遣会社や研修会社もあるようですしね。時間はかかると思いますが、方向性としては確実にそちらへ進んでいくと思います。
私の場合もそうでしたが、新しいスキルを身に付けるというのは言葉で言うほど簡単なことではありません。ですが、一度壁を乗り越えてしまえば強力な武器となり、クライアントからの信頼も増しますし、自分の市場価値も間違いなく上がるので、チャレンジするに越したことはないと思いますよ。
“フリーランスになると成長が止まる”は思い込み
今後もRPAに関するコンサルティングを続けていくご予定ですか?
藤丸:そうですね。知識やノウハウもだいぶ溜りましたし、RPAもまだまだこれからという段階ですから。
さらに今後は、フリーランスとして頑張っている人やこれからフリーランスを目指そうとしている人に対する育成も手掛けていきたいと思っています。新しいスキルやソリューションを身に付けたいと思っている人を応援したいですね。人材育成を通して業界自体が活性化すれば、結果的には自分自身のためにもなりますし。
自らが人材育成を手掛けることで業界自体を活性化させるという発想は素晴らしいですね。人材教育には以前から興味をお持ちだったのですか?
藤丸:フリーになった頃から興味はありました。独立当初は「マイクロタスク」という、コンサルティングの仕事をタスクレベルに細分化して高単価のコンサルタントでなくてもできる部分を他の人とシェアするような事業を考えていたのですが、それも広い意味で人材育成につながる取り組みでしたから。マイクロタスクの事業化は採算の問題で見送りましたが、今後はフリーランスの育成という分野で教育に貢献できればと思っています。
「コンサルティングファームに居続ければ学びの機会も多く成長できるが、フリーになるとそれができなくなるから独立しない」といった意見を時々耳にしますが、実際はそんなことはないと感じています。プロジェクトを回す能力は、確かにファームにいた方が身に付くかもしれません。しかし、フリーになるかどうかという岐路に立っているということは、そういったベースとなるスキルは既に身に付いている段階のはずです。それならば、その先のスキル習得に関しては、ファームにいようがフリーであろうが自分が努力しなければならないという点では同じなのではないかなと。
むしろ、クライアント側の企画担当者という立場でプロジェクトに参画し、クライアントの視点から外部のコンサルタントと接する機会を得られるフリーランスの方が、自分の仕事を客観視して見直すための気づきも多くなるのではないかと思います。
確かにそれまでファームに勤めていたのであれば、フリーランスとしてユーザーサイドの立場になることで、見える視界がまったく変わってきますね。結果的にはその方が成長スピードも上がるのかもしれません。では最後に、今後藤丸さんと同じように新たなスキルを身に付けて自分の可能性を広げようと考えている方へ、メッセージをお願いします。
藤丸:危機感を抱いた時、気づきを得た時、それを見過ごさないことがなにより大切だと思います。アンテナの感度を常に上げておけば、その危機感や気づきをスキルアップや事業展開につなげられる可能性が出てきますから。フリーでやってみたいという気持ちが少しでもあるなら、飛び込んでみればまた新たな学びも得られるはずです。ぜひチャレンジしてほしいですね。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
2年間という時を経て再びインタビューに応じてくださった藤丸さん。途切れることなくプロジェクトに参画する順風満帆な日々を送ってこられたにもかかわらず、ご自身のスキルの陳腐化を危惧し、一からRPAという新たな武器を身に付けたというエピソードに、私たちも背筋が伸びる思いを抱きました。
どんなに今が順調でも、未来に対して驕らず真摯に努力する。そんな藤丸さんの姿勢こそが、クライアントの途切れない素晴らしいキャリアと実績を作り上げているのだと感じたインタビューでした。